Dr.ジーアのMyカルテ

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JA全農 家畜衛生研究所
初乳給与方法の改善による子牛の下痢対策

 子牛が下痢を発症する一因として、移行免疫の不足があります。今回は子牛に十分な移行免疫を付与するのに必要な初乳給与について再確認します。また、給与方法を改善することにより、下痢発生が軽減された酪農場の事例を紹介します。

1 初乳給与の重要性とポイント

ポイント 良質な初乳を、なるべく早く、なるべく多く給与すること

 免疫物質の一つである免疫グロブリンG(IgG)は病原体から体を守る免疫の主役です。人間の場合、母親のIgGは胎盤を介して子どもへと移行します。一方、牛は胎盤の構造が人と異なるため、妊娠中にIgGが移行しません。そのため、子牛がIgGを獲得するための唯一の手段は初乳の摂取となります。IgGを獲得できていない子牛は病気に対して無防備な状態のため、初乳の摂取がうまくいっていない農場では、さまざまな疾病対策を施しても効果が出ないケースが多いのが実情です。
 子牛に初乳を給与する際の重要なポイントは、「良質な初乳」を、「なるべく早く」、「なるべく多く」給与することです。「良質な初乳」とは、IgGが多く含まれる初乳です。2回目以降に搾った乳ではIgG量が大幅に減少するので、文字通り最初に搾った乳を給与することが重要です。ただし、母牛が初産の場合や、栄養状態が悪い場合、ストレスがかかっている場合等には最初に搾った乳であってもIgG量が少ないことがあります。
 現場で初乳に含まれるIgG量を測定することは困難ですが、糖度を測定することでIgG量を推定することができます。糖度計を用いて測定し、糖度の高い初乳 (22~25%以上) を給与するようにしましょう。初乳の質が悪い場合には凍結初乳や初乳製剤の活用が有効です。
 また、細菌に汚染された初乳を給与した場合、子牛のIgG吸収率が低下することが知られています。バケットミルカーや哺乳器具を日頃から清潔にしておきましょう。「なるべく早く」については、子牛がIgGを吸収できるのは生後約24時間以内です。時間の経過とともに吸収率は低下していくので、4~6時間以内には給与するようにしましょう。最後の「なるべく多く」についてですが、初乳給与量の目安は体重の10%とされています。飲乳欲のある子牛には飲めるだけ給与するようにしましょう。

2 移行免疫の評価

 初乳を飲んだ子牛にどれだけIgGが移行したかを評価する方法として血液検査があります。IgG自体を測定する他に、総タンパク質 (TP)等を測定し、IgGを推定することもできます。ホルスタイン種では、以前から生後24~48時間において血清中のIgGが10.0g/Lを下回る子牛は受動免疫移行不全(FPT)であるとされ、10.0g/Lを上回る子牛よりも事故率が高いと報告されていました。2021年に米国農務省(USDA)から報告された基準ではさらに細分化され、非常に高い(≧25.0g/L)、高い(18.0-24.9g/L)、普通(10.0-17.9g/L)、低い(<10.0g/L)とされています (表1)。

表1.米国農務省から報告されている移行免疫評価の基準

3 季節による影響

ポイント 母牛と子牛の寒冷・暑熱ストレスを取り除くこと

 定期的に子牛のIgGをモニタリングしていた農場で、寒冷期にIgGの値が低下したことがありました(図1)。この農場では季節に関係なく同じ方法で初乳を給与していたそうです。しかし、子牛のIgG吸収率は寒冷ストレスによって低下することが知られています。
 一方、暑熱期には母牛が暑熱ストレスを受けることで初乳の質が低下する恐れがあり、それに伴って子牛の移行免疫が不足する可能性があります。極端な気候のときには初乳給与のポイントをより忠実に守るとともに、寒冷・暑熱ストレスを取り除くように心がけましょう。

図1.同一酪農場における寒冷期と通常期の子牛血清中IgG濃度

4 ケーススタディ(事例)

当該農場のケース(酪農)

初期症状

 下痢を伴う子牛の死亡事故が多発し、事故率は一時20%近くに達した

糞便検査結果

 サルモネラは陰性で、ロタウイルス、コロナウイルス、クリプトスポリジウムが検出された

対応

 移行免疫の状態を確認するため子牛の血清IgG検査を追加し、衛生対策を検討した

原因と対策

 サルモネラ陰性にしては事故率が高かったことから、子牛側の要因も大きいと考えられました。そこで、当該農場では10日齢以内の牛を対象に血清IgG検査を実施(図2、改善前)。その結果、8頭中6頭で10.0g/Lを下回っており、初乳給与がうまくいっていない可能性が示唆されました。
 農場の方と今後の給与方法について話し合い、初乳の糖度を測定して25%未満だった場合には積極的に初乳製剤(さいしょのミルク)を併用することにしました。給与方法を変更した後、同様の検査を実施した結果(図2、改善後)、血清IgGが25.0g/Lを超える牛が8頭中3頭、18.0-24.9g/Lが8頭中4頭と大幅に改善しました。移行免疫の改善のみで全てが解決するわけではありませんが、改善に伴い、下痢による死亡事故はほとんどなくなりました。

図2.当該酪農場における初乳給与方法改善前後の子牛血清中IgG濃度

5 IgG値が高い子牛の割合を増やし事故を防ぐ

 農場における事故や疾病の発生を予防するためには、IgG値が高い子牛の割合を増やすことが重要です。子牛の下痢の被害に困っている際は、原因究明のため、糞便検査に加え、血清IgG検査も併せて実施することをお勧めします。家畜衛生研究所では各農場の問題把握と状況に合わせた対策を提案していますので、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。

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