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黒毛和種のゲノミック評価の現状と育種改良の展望

黒毛和種の枝肉形質の遺伝的改良スピードは、ゲノミック評価の利用によりさらに向上しました。近年では、オレイン酸をはじめとする脂肪酸や生時体重など枝肉形質以外のさまざまな形質のデータが蓄積され、活用され始めています。本号では、ゲノミック評価の現状と全農ET研究所(以下、ET研究所)における育種改良の展望について紹介します。

ゲノミック評価の現状

 ゲノミック評価(※1)においては、能力評価したい形質の表現型記録(※2)と遺伝子型データ(SNPデータ)(※3)の両方を持つ個体(訓練群)を多く集めることで遺伝的能力(育種価)評価の信頼度が向上します。遺伝的改良のスピードには、世代間隔、遺伝的なばらつき、育種価の正確度等の要因が影響します(図1)。枝肉形質は遺伝率が比較的高い形質であり、大規模な訓練群を使用したゲノミック評価によって、より早い段階で育種価の正確度が向上し、よりスピーディーな遺伝的改良が可能となりました。

 また、オレイン酸や生時体重についても遺伝率が比較的高い形質であり、遺伝的改良の余地があります。この他にも初産月齢や分娩難易度といった繁殖形質に関するゲノミック予測の論文も出てきており、ゲノミック評価が可能な形質は今後増えていくことが想定されます。

 一方で、ゲノミック評価やMOET(過剰排卵-胚移植)、OPU(生体内卵子吸引)-IVP(体外生産胚)の利用により、特定の種雄牛の凍結精液の使用頻度および、その産子の比率が高まっていると考えられます。ゲノミック評価の利用拡大により、今後近交係数(※4)の増加スピードが上昇することが懸念されます。

用語解説

※1 ゲノミック評価…牛が持っている遺伝的な能力の度合い「育種価」に各個体の遺伝子型データを加え、計算したもの
※2 表現型記録…牛が持っている遺伝子型がどのように発現したのかを記録したもの
※3 遺伝子型データ(SNPデータ)…個体ごとに異なる牛の遺伝子の構成を示すデータ
※4 近交係数…牛の近親交配を示す度数(ある種雄牛が父方・母方に共通する祖先の遺伝子をどの程度持っているか)

ゲノミック評価と育種改良のフロー図

採卵性の遺伝的改良

 ET研究所では「採卵性」と呼ばれる形質に注目し、育種改良に向けたさまざまな研究を行ってきました。ここでいう採卵性とは、雌牛に体内採卵を行った際(図2)の胚の生産能力のことです。採卵性の個体差は大きく、黒毛和種の採卵記録について分析したところ、従来の繁殖形質よりも高い遺伝率が推定されました。記録のばらつきが大きく、中程度の遺伝率であることから、黒毛和種における採卵性は遺伝的改良が可能であると結論付けました。

 続いて、採卵性と枝肉形質との間の遺伝的な関係性を調査しました。分析の結果、採卵性と枝肉形質の間には遺伝的関連性はほぼ無く、採卵性の遺伝的改良により枝肉形質に悪影響は与えないことが明らかとなりました。

 これらの結果より、ゲノミック評価による採卵性の遺伝的改良が期待できると考えられたため、今後、採卵性のゲノミック選抜を開始し、産子の採卵成績を調査していく予定です。より多くの胚を効率的に製造し、生産者の皆さまにお届けできるよう今後も研究を進めていきます。

図2 胚(受精卵)移植のフロー図

今後の展望

 枝肉形質の遺伝的改良は飛躍的に進んでいます。各団体がオレイン酸や生時体重、繁殖形質等さまざまな形質のゲノミック評価に独自に取り組んでいます。また、グルタミン酸、イノシン酸等のうま味成分、サシの細かさ等も注目されてきています。今後、乳牛のようにさまざまな形質のゲノミック評価値が公表され、生産者の好みに合わせた遺伝的改良が可能となるかもしれません。

 ET研究所においても、今後の黒毛和種の育種改良について議論を進めている最中であり、採卵性を含めた独自の項目のゲノミック評価を行っていきたいと考えています。生産者の皆さまに還元できる段階になりましたら、改めてご紹介させていただきます。

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