ZEN-NOH海外レポートVol.8 全農インターナショナル欧州(株)
和牛の卸・小売需要拡大に向けた戦略

2021.10

EU・英国への和牛輸出の状況と消費傾向

 全農インターナショナル欧州㈱は、2015年2月に英国ロンドンに設立された現地法人です。当社は全農グループの欧州における拠点として、和牛・米を中心とした国産農畜産物や、加工品の販売促進に取り組んでいます。

日本からの牛肉の輸出状況

 日本からEU・英国に輸出されている主要な畜産物である牛肉(和牛)について考察していきたいと思います。2020年に日本から海外へ輸出された牛肉は合計4844.7tでしたが、そのうち、EU・英国には約3%の153. 9tが輸出されました。また、同年のEU・英国におけるトップ3の輸入国はオランダ(51.2t)、ベルギー(36.5t)、英国(35.2t)でした。輸入国から最終消費国に再輸送されて消費される量が相当量あると見られていることから、各国の輸入量と消費量は一致しないと考えられます。ヨーロッパにおける和牛の大消費国は、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダなどと思われます。また、日本からEU・英国に輸出される牛肉の部位は、ロインの割合が非常に高く、カタ・ウデ・モモ・バラといった部位の数量は少ないことも特徴です。

和牛の販売状況

 EU・英国における和牛の販売先は、高級レストランなどへの卸需要の割合が多く、量販店などで販売される小売需要はアジアや北米といった輸出先に比べて少ないと見られています。英国ロンドンで和牛が販売されている店を例に挙げると、日本食材スーパー、高級デパート精肉売り場、食肉専門店などであり、現地系スーパーマーケットなどの大手量販店での取り扱いはまだ見られません。ロンドンの高級住宅街に立地する、ある食肉専門店では、日本産和牛サーロインが1kgあたり250ポンド(約3万8000円)という価格で販売されています。日本でも和牛はとても高級な食材ですが、ロンドンにおいても非常に高価な食材であり、小売店で和牛を購入し自宅で調理して食べるというよりは、高級レストランで食事をして楽しむといった消費のされ方がまだまだ主流であると思われます。

写真1. ロンドンの高級中華レストランの和牛メニュー

コロナ禍の影響

表. 日本からの牛肉輸出(冷蔵・冷凍合計)

 EUが日本からの牛肉の輸入を解禁したことを受けて、2014年から和牛の輸出が開始され、輸出量は年々順調に増加していました。しかし、新型コロナウイルスが発生した2020年のEU・英国向けの輸出数量は前年対比73%と大きく減少し153. 9tとなりました。他の地域と同様にヨーロッパにおける感染拡大はたいへん深刻であり、各国が感染拡大防止のために厳しいロックダウン(都市封鎖)措置や飲食店の営業規制を行ったことなどにより、和牛の需要は大きく減少しました。一方で、コロナ禍において需要が高まったホームデリバリーを行うオンラインショップが急速に増加し、その中で和牛の取り扱いも広まったと見られています。これまでEU・英国において和牛の小売需要は限定的でしたが、オンラインショップにおける取り扱い拡大により、販売数量の拡大が今後期待されます。

牛肉の輸出拡大に向けた課題

 日本では広く親しまれている薄切り肉を食べる文化がヨーロッパではあまりありません。例えば、ロンドンで薄切り肉を買いたい場合には、日本食材スーパーで購入するか、または、食肉専門店などでスライスの事前予約が必要です。和牛の更なる輸出拡大に向けて、すき焼き・しゃぶしゃぶに代表される薄切り肉の調理方法や美味しさをPRして、ロインだけではなく、カタ・モモといった部位の普及に引き続き取り組んでいく必要があります。和牛は他国産の牛肉とは異なり、カタ・モモといった部位もたいへんやわらかく味わい深い特徴があるので、それらの部位の魅力を引き出して商品化するカッティング講習会などをレストランのシェフや卸・小売業者向けに開催するとともに、その美味しさを消費者に向けてもアピールしていく取り組みが重要です。また、増加しているオンラインショップにおける和牛の取り扱いが小売需要の拡大の大きなチャンスになりますが、現地の消費者に好まれる商品開発や、SNSを中心とした広告宣伝に力を入れて、ヨーロッパにおける小売需要を拡大していきたいと思います。当社では、今後も日本の誇る食材である和牛の素晴らしさをヨーロッパに向けて発信し、輸出拡大に取り組んでいきます。

写真2. 肩ロースを使用したカッティング講習会
写真3. 全農インターナショナル欧州の事務所外観

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