JA全農 家畜衛生研究所
夏に起こりやすい、豚丹毒の対策について

2022.04

 今年の冬は例年にない寒さとなり、例年に比べ積雪量も多かったのではないでしょうか。ここ数年は暖冬だったため、昨年までとは畜舎管理を変えた方もいるかと思います。季節は春を迎え、その後、蒸し暑い夏へと移行していきます。今回は蒸し暑い季節に話題となる「豚丹毒」の対策について紹介します。

1. 豚丹毒とは

 豚丹毒は豚丹毒菌によって引き起こされる疾病です。家畜伝染病予防法では、届出伝染病に指定されています。豚丹毒菌は自然界に広く分布し、外見上健康な豚の扁とうからも豚丹毒菌が分離されます。豚へは、経口、創傷より菌が侵入し、扁とう、消化管に保菌されます。また、豚丹毒は、と畜場においても検査対象となっており、と畜時に豚丹毒と診断されれば、その枝肉は廃棄対象となります。

 豚丹毒は、①急性敗血症型:全身に急激に菌が広がることで発熱、発疹を呈し、重度の場合死亡する(写真)、②蕁麻疹型:発熱や食欲不振の後に蕁麻疹を呈する、③慢性型関節炎など、さまざまな病型をとりますが、高温多湿等の環境ストレスにより増加します(農研機構HP)。

写真. 急性敗血症型の豚丹毒
(耳翼のチアノーゼ)

2. 豚丹毒の発生状況

 全国の家畜保健衛生所に過去10年間届出のあった件数を見ると、2013年から2015年にかけて年間3,000件以上の届出がありました。しかし、2016年以降は、2,000件前後で推移しています(図)。発生地域としては九州・沖縄の割合が高く推移しています。

3. 豚丹毒の対策、ワクチンの使用について

 豚丹毒の対策には、ワクチンが有効です。「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類が市販されています。これらのワクチンは投与部位、投与方法が異なりますので(表1)、使用時には獣医師の指示に従ってください。

 また、ワクチンによる防御を効果的にするためにも、豚群の健康な状態の維持が不可欠です。日常から豚群の健康観察を徹底し、調子の悪い個体の早期発見、早期治療を行うための管理獣医師への相談も密に行ってください。

 豚丹毒の治療では、一般的にペニシリン系の抗菌剤が有効となります。また、豚丹毒を発症するケースでは暑熱ストレス等が要因として挙げられています。暑熱ストレスに対しては、外気温、畜舎内湿度の確認、換気扇の活用、密飼いの防止などに留意してください。

4 日常管理での注意点

 現在、家畜伝染病予防法で規定された飼養衛生管理基準の遵守が求められています。豚丹毒菌対策としては、①病気を持ち込まない、②病気を広げないための取り組みに力点を置いてください(表2)。

①病気を持ち込まない対策

 衛生管理区域に出入りする車両の入場時の消毒徹底、衣服・靴の着替え・履き替え、手指消毒の実施、衛生管理区域への野生動物侵入防止対策(防護柵の設置等)が挙げられます。また、外部から育成候補豚等を導入する場合は、隔離期間を設けて豚群へ導入します。

②病気を広げない対策

 衛生管理区域内で、豚舎ごとに専用衣服・靴への着替え・履き替え。また、手指消毒の実施、野生動物の侵入防止のためのネット等の設置が挙げられます。更に、豚移動後の豚房は、次の導入豚へ豚丹毒菌を広げないため、豚房の水洗・消毒の徹底、十分な乾燥期間の確保を行います。

5 衛生検査活用による豚群の状態把握

 定期的な抗体検査を実施し豚丹毒菌の感染状況、ワクチン抗体付与状況等、豚群の状態把握を行い、対策の一助とします。クリニックセンターでは、豚丹毒菌の抗体検査を実施しています。クリニック検査のご利用を希望される際には、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。

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