未来を創る
親子で雪害乗り越え規模拡大に向け奮闘

2022.04

 新企画「未来を創る 新たな担い手たち」では、次世代を担う若手畜産農家の奮闘する姿を紹介します。今回は山梨県富士河口湖町で酪農を営む長田(おさだ)牧場を訪れ、就農8年目の長田成和起(なるわき)さん(31)、2年目の和大(かずひろ)さん(33)兄弟の酪農にかける思いをうかがいました。

長田成和起さん(左)と、兄の和大さん(右)
牛たちがゆったり過ごすフリーバーンの牛舎(経産牛)
経産牛の牛舎横に設置されたパドック

大雪被害を機に就農「父を支えたい」

 富士山の西麓に位置し、静岡県との県境に近い富士河口湖町富士ケ嶺地区。長田牧場は、標高1000mに広がる県内一の酪農地帯にあります。後継者の成和起さんは高校卒業後、会社に勤めながら休日に牧場の仕事を手伝っていました。就農のきっかけとなったのは「平成26年豪雪」です。長田牧場でもこの時、2m近い積雪を記録し、雪の重みに耐えきれなかった牛舎の屋根が落ちて家族同然の牛の多くが下敷きになりました。成和起さんも雪に阻まれ、職場からすぐには戻ってこられず、父・幸次(こうじ)さん(73)は、なすすべがありませんでした。

 大切に育ててきた牛の惨状を目の当たりにした幸次さんは深く悲しみ、一時は廃業も検討していたといいます。成和起さんは悩みを深める父の背中に、牛への強い愛情や自分の将来を心配する親の深い思いを感じ取り、就農する決意を固めました。

 その後、家族で力を合わせて経営を立て直し、2年前には兄の和大さんも就農しました。現在は経産牛60頭に加え、未経産牛、交雑種(F1)の計114頭を飼養しています。牛舎は経産牛と未経産牛(F1含む)で各1棟ずつあり、経産牛用の1棟を新たに建設中で計3棟になる予定です。資材調達においてスケールメリットを確保するため増頭を決意しました。

 新牛舎がフル稼働すると、経産牛は現在の2倍の100頭規模になります。一頭一頭に目が行き届く管理が課題になりますが、そこで力を発揮しているのが和大さんです。建築関連の会社に勤めていた時の知識や経験を活かして、牛のストレスを軽減し、作業の効率的な動線を確保する牛舎や周辺設備の新たなレイアウトを考案しています。

パドックを併設した育成牛用の牛舎
建設中の新畜舎

先輩の教えで気づいた健康な牛づくりの大切さ

 成和起さんは、就農時に山梨県立八ヶ岳牧場で約1カ月間研修を受けました。就農後も近隣の若手酪農家でつくる山梨県デーリー俱楽部に参加するなど、仲間と一緒に知識を深めています。仕事に慣れた頃、先輩農家に「牛に対してもっと真剣になれ」といわれ、飼養管理の原点を見つめ直しました。「健康な牛をつくることが乳量増につながることを、先輩の一言が改めて気づかせてくれました」と話します。

 それ以降は牛をよく観察し、乳房炎をはじめ病気やケガの未然防止やストレス軽減に力を入れています。敷料は湿気がたまらないよう素材にこだわり、餌は自家栽培のリードカナリーグラスやトウモロコシなどの穀類に活性酵母や輸入乾牧草などが混ぜられたTMRを給与しています。繁殖・餌の調達などを担当する成和起さんは、4年ほど前に家畜人工授精師の資格を取得しました。

 和大さんは主に哺育・育成を担当しています。発情の兆候を見逃さないように発情発見器(ファームノートカラー)の有効活用や牛の観察を怠らないことが和大さんの役割です。いつも牛に寄り添う和大さんには、家族の中で牛が一番なついているといいます。家族全員が牛目線で一頭一頭大切に育てる経営努力が実り、乳量は少しずつ伸びています。成和起さんは「この仕事の魅力は、自分たちでいろいろと考え、その目標に全力で進んでいけるところにあります。厳しい経済情勢が続いていますが、牛が健康で元気に育ってくれれば、それが一番です」と笑顔で話しました。

JA東日本くみあい飼料の職員とともに
カーフジャケットとネックウォーマーで寒さ対策をする子牛

この記事をシェアする

  • LINEで送る
  • Facebookでシェアする

おすすめ関連記事

他の記事を探す

蓄種別
テーマ別