全農(上海)貿易有限公司
拡大する中国の牛肉市場

2022.06

 中国は世界最大の人口大国であると同時に消費大国です。急速な経済成長とともに、中国人の嗜好が変化し、近年、牛肉の国内需要が年々拡大しています。その一方、国産の供給が追いついていないため、牛肉の輸入量が急増すると同時に、海外から繁殖用生体牛の輸入も増加しています。習近平国家主席の「共同富裕」提唱や、ゼロコロナ政策の移動規制に終わりが見えず、足元の経済見通しに不透明感は増していますが、今後も市場規模の拡大が予測される中国における牛肉需給の概況についてご紹介します。

【拠点紹介】

全農(上海)貿易有限公司
 2020年8月、上海市浦東新区に設立。その歴史は、㈱組合貿易上海駐在員事務所として開設された1991年にさかのぼります。肥料原料やフレコン袋などの生産資材の調達業務および日本産食品の輸入販売事業を担っています。

牛肉の消費と輸入について


写真1.上海市内の日系焼肉レストランで提供される豪州産和牛

写真2. 江蘇省蘇州市内の日系スーパーマーケットの精肉コーナー

 ここ数年、中国の牛肉需要は著しい上昇を見せています。2019年には年間消費量が100万t上昇、ブラジルを抜いて世界2位の牛肉消費国となりました。2021年には1015万t(香港の39万tを含む)に達し、1位の米国まで約250万tの差まで迫っています。
 市場規模拡大により消費量の成長率は鈍化しているものの、更なる拡大へ向けて勢いのある焼肉レストランや多種多様な形態の火鍋料理などの外食産業では高級化が進み、ケータリング、Eコマースなども合わせた市場の裾野は拡がりを見せています。2022年の牛肉需要は更に上昇すると予測されています。
 中国税関総署によると、2016年から2021年までの牛肉の輸入数量は年々増加しています。2021年の牛肉輸入数量は233.26万t、輸入金額は124.89億ドル、平均輸入価格は5.35ドル/kgでした。主な供給国は、上位からブラジル(85.9万t)、アルゼンチン(46.5万t)、ウルグアイ(35.5万t)、ニュージーランド(20万t)、オーストラリア(16.2万t)、米国(14.4万t)と続いています。
 なお、二国間関係が悪化した豪州からの輸入が減少し、価格が高騰しているため、代わりに米国産牛肉の需要が拡大しています。また、輸入冷凍食品に対する新型コロナウイルス検査・消毒が厳しく管理されるようになり、輸入手続きの困難さが続いているとの声が市場関係者から聞かれています。

牛肉の国内生産について

 中国は、牛肉や酪農の生産に関して発展途上にあり、古くから「国内生産量の確保」が食肉供給の戦略の1つに掲げられてきました。しかし近年は、経済発展や国民所得の向上にともない、「生産量」から「品質重視」へシフトしつつあります。中高級肉の生産は投資対象ともなり、黒龍江省、吉林省、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、甘粛省などでは「万頭牧場」と呼ばれる数万頭~数十万頭規模の肉牛生産牧場も出現しています。
 在来の黄牛、紅牛(赤牛)のほか、海外種のシンメンタール種、アンガス種などを含めた肉専用種が飼養されています。国家統計局のデータによると、牛肉の生産量は全体的に増加傾向。2021年の牛肉生産量は698万tに達し、2020年から25.6万t増加しました。

日本産牛肉の輸入規制と政府間の協議状況について

 2019年12月19日に、中国の税関総署と農業農村部(日本の農水省にあたる)は2001年の牛海綿状脳症(BSE)の発症を受けた、日本産の月齢30カ月以下の骨なしの牛肉の輸入禁止措置について解除すると発表しましたが、輸入評価審査要求に合致する供給国リストに日本はまだ入っていません。そのため、現時点において、日本産牛肉を中国に輸出することができません。
 政府間では、対中輸出再開に向けて、食肉処理施設の衛生管理やトレーサビリテイシステムなどの食品安全システムの評価、生産・加工において輸出畜産物が満たすべき基準や証明書への記載内容、輸出施設の認定・登録などについて引き続き協議が行われています。
 全農(上海)貿易有限公司は、将来的な牛肉解禁を見据え、解禁時により有利な販売ができる体制を構築するため、中国内の市場調査や販路開拓等に取り組んでいます。

コールドチェーン市場の動向について

 中国では、経済発展にともなう個人所得の増加や農産物などの生産量の増加から、2020年の中国コールドチェーン市場総額が6.99兆元に達し、成長率も前年比16.5%増と、その市場規模は順調に拡大しています。生鮮Eコマース市場は引き続き拡大していくと予測されており、ラストワンマイル物流とコールドチェーン物流の重要性も高まると想定されます。
 一方で、先進国に比べると、インフラの整備や物流システムの構築が進んでおらず、輸送中のコールドチェーン断絶も多く、食品の腐敗率も高いといわれています。各地域で運用が異なることや物流システムが成熟していないことから、マーケットの広がりに合わせた内陸部へのインフラ投資、効率の良い物流網の構築、トレーサビリティ管理強化等の課題解決に向けた取り組みが必要と指摘されています。

写真3. 肉類や水産品等のコールドチェーン商品を取り扱う上海市内の江陽卸売市場

(参考)「江陽卸売市場」の概要
 2007年に設立。上海市宝山区に所在。経営面積10万㎡の巨大卸売市場。海鮮エリア、川魚エリア、冷凍品エリア、肉類エリア、料理食用品エリア等があり、店舗数は水産物2,000社、肉類30社以上。華東地域では一番大きな農産物卸売市場といわれています。 独自の検査センターを持ち、迅速な商品検査の対応も可能。主な取り扱い商品は水産物及び肉類、一日あたりの取り扱い量は1,000t以上、上海市内全域向け供給量の50%以上を占めるといわれています。

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