「秋口にかけての飼養管理について」
秋口にかけての飼養管理について:養豚場における蚊の対策

2022.08

かゆみや羽音に よって人に不快感を与える蚊は、豚に対してもストレスを与えるだけでなく、吸血の際に病原体を媒介し、母豚では異常産、雄豚では精巣炎を引き起こし、農場の成績に悪影響を及ぼします。今回は、蚊の生態や養豚場における対策について紹介します。

養豚研究室

蚊が媒介する感染症

 蚊が媒介する豚の病気として、人獣共通感染症としても知られる日本脳炎が挙げられます。免疫のない妊娠母豚が日本脳炎に感染した場合、白子や黒子、神経症状を示す新生子豚を分娩する異常産が発生します。また、種雄豚が感染した場合は、精子を作る能力が低下して受胎率を下げる原因の1つとなります。

 日本脳炎を防ぐためには、ワクチネーションや適切な抗体検査が有効です。しかし、蚊が日本脳炎以外にも豚繁殖・呼吸障害症候群(P RRS)など多くの感染症の伝播を起こしうる点や、蚊の発生が家畜にとって大きなストレスとなって生産性を低下させる点を考慮すると、その発生自体を防ぐ取り組みが重要となります。

発生条件と対応策

 日本脳炎を媒介するコガタアカイエカは日本全土に生息し、最も発生する時期は7~8月とされています。しかし、コガタアカイエカが活動する温度帯は15~32℃と幅広いため、実際は地域によって4月から10月頃まで発生します。そのため、蚊の対策を実施すべき時期は夏場だけではありません。

 蚊は卵から蛹の期間を水中で過ごすため、水の近くで発生します。人の血を吸うヒトスジシマカなどは、古タイヤや植木鉢などの小さな水たまりに生息しますが、日本脳炎を媒介するコガタアカイエカは、水田や沼地に生息するとされています。夏場の養豚場では暑熱対策として稼働するクーリングパドシステムなどの下に長期間大きな水たまりができてしまい(写真1)、蚊の発生源となる可能性があります。豚舎設備からの水漏れや豚舎付近の大きな水源には注意が必要です。また豚舎まわりの草刈りも蚊の発生対策に有効とされています。

写真1 パドの下にできた水たまり

 豚舎への蚊の侵入を防ぐうえでは、豚舎内空間や出入口に一般的な蚊の忌避剤を散布することが重要です。また、蚊は壁や防鳥ネットに止まって休む時間が長いため、止まりそうな場所に殺虫剤を散布することも蚊の対策に有効な場合があります。

 豚体へ殺虫剤を直接散布する場合は、獣医師の指示のもと動物用医薬品のピレスロイド系殺虫剤(動物用金鳥ETB乳剤、ペルメトリン乳剤「フジタ」など)を使用することが有効です。動物用医薬品の殺虫剤は希釈を行い、蓄圧式噴霧器等を用いて容易に豚体に散布(写真2)することが可能ですが、薬品ごとの用法用量に従い、出荷までの休薬期間に注意してください。蚊の発生源をなくし、積極的に成虫の駆除を行うことで、生産性を高めるとともに、人や豚に居心地の良い農場づくりを心がけましょう。

写真2 豚体への殺虫剤の散布風景

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