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世界の需給と米国産の生育状況
とうもろこしの価格高騰

 米国の2022/2023年産とうもろこしの作付けは、平年並みのペースで終了しました。6月現在、作柄は良好ですが、世界の需給は依然ひっ迫していることから、価格は数年ぶりの高値圏で推移しています。今回は、とうもろこしの価格が高騰している要因を2020年に遡って説明します。

中国の需要急増で世界最大の輸入国に 

 米国では大干ばつで2012年に相場が高騰しましたが、その後は豊作が続き、2014~19年にかけて1ブッシェル※1あたり3ドル台を中心に推移していました(図1)。しかし、20年夏頃から中国向けの需要が急増する一方、20年夏は米国の産地が高温乾燥に見舞われたため生産量は減少し、相場は上昇に転じました。(※1とうもろこしの1ブッシェルは25.401㎏に相当)

 中国ではもともと、とうもろこしは3大穀物(米・小麦・とうもろこし)の1つで、自給が前提とされていました。このため関税割当制度※2に720万tの輸入枠があるのみで(対する中国の国内需要は3億t弱)、輸入量は2018/2019年度までは多くても500万t程度でした。ところが、2020年にアフリカ豚熱からの回復などをきっかけに、需要が国内生産を上回ったことで、20年7月から米国産とうもろこしを大量購入する動きが加速。その結果、2020/2021年度は米国産を2250万t成約し、ウクライナなど他国を合わせた中国の輸入量は関税割当枠を大きく上回る2950万tにまで増加したと推測されます。2020/2021年度の2950万tは世界の輸入量の16%に相当し、世界最大のとうもろこし輸入国となりました(図2)。

(※2関税割当制度: 720万tの枠内輸入の関税率は1%、枠外は飼料用・食品用で同65%)

ウクライナ侵攻で需給ひっ迫

 2022年に入ると南米の作柄悪化を受け、シカゴ相場が約10年ぶりの高値水準で推移している中、2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、更に一段相場を押し上げる結果となりました。

 ウクライナとロシアはいずれも農産物の輸出大国であり、2カ国の世界の輸出シェアは小麦や大麦で3割、とうもろこしで約2割(ウクライナがメイン)を占めています。また、ヒマワリ油を中心とした植物油のシェアも高く、この2カ国の軍事衝突は穀物相場へ多大なる影響を及ぼしました(図3)。需給ひっ迫につながる要因を大きく分けると、次の3点が挙げられます。

 1つ目は、この2カ国からの輸出の停滞です。ウクライナの穀物輸出の最大の拠点はウクライナ南部のオデッサ港ですが、7月22日現在、黒海沿岸はロシア艦隊により海上封鎖されており、船舶の往来ができなくなっています。一方、ロシアは西側諸国からの経済制裁を受けており、それぞれ輸出量が大きく減少しています。2つ目は、ウクライナでの22年春からの作付けが軍事侵攻により妨げられるという点です。3つ目はロシア、ウクライナからのエネルギー資源や肥料の輸出が停滞することで、農業用資材の高騰、供給不足となり、世界全体での生産コスト上昇を招いた点です。特に燃料や肥料価格の高騰は新型コロナウイルスからの需要回復を受け21年頃から既に始まっていましたが、主要生産国であるロシアへの制裁により、これらの需給がより一層ひっ迫することとなりました。

 特にとうもろこしではウクライナの輸出停滞によって、世界の穀物需要が南米や米国へシフトする流れを生みました。需要が増加した米国では在庫が減少するとの思惑の下、22年4月には一時8ドル台まで価格が上昇しました。7月時点では5ドル台後半まで下落していますが、引き続き高値圏で推移しています。

米国産に高まる期待6月時点では作柄順調

 さて、世界的に需給がひっ迫し、価格が高騰する中、世界最大のとうもろこし生産国である米国の生育状況が一層注目されています。米国では4~5月頃にかけて作付けされ、7月頃から単収を大きく左右する受粉期を迎えます。この受粉期は高温乾燥の天候を嫌い、適度な降雨及び気温が必要とされますが、夏場の最も暑い時期に受粉期を迎えると、受粉が上手くいかずに単収の減少要因となります。そのために、早期に作付けを終えることが豊作への第一歩となります。

 2022/2023年産については、4月は冷涼多雨な天候が続き、土壌水分が多かった影響で作付けが遅れる場面がありました。ただ、5月中旬以降は天候が回復したことで、急ピッチで作付けが進み、最終的には平年並みのペースで作付けを終えることができました(図4)。このため、夏場の天候次第ではあるものの、6月時点では順調な生育が期待されています。ただし、今後も極端に乾燥したり、また完熟ステージ前に気温が下がり霜の被害が発生すると、単収を押し下げる要因となりますので、引き続き産地の天候が注目されます。

【拠点紹介】

全農グレイン株式会社
全農グレイン㈱で働く全農駐在員の皆さん

 全農グレイン株式会社は1979年にJA全農グループの米国における穀物輸出基地として設立されました。設立以来、内陸集荷基盤強化や保有する輸出エレベーターの増強も図られ、強固な集荷・輸送・輸出の一貫サプライチェーンの構築を実現しています。

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