Dr.ジーアのMyカルテ

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JA全農 家畜衛生研究所
養豚における衛生検査の重要性

 季節変化等で豚にストレスがかかると、免疫力が低下して疾病が流行することがあります。今回は検査を活用して疾病の被害を迅速に抑えることができた事例を紹介します。

初動で適切に対処するための検査

 疾病による被害を防ぐため、普段から適切な管理に努めていても、気温・湿度の変化、空調等の故障、餌切れなど、豚に大きなストレスがかかると、免疫力が低下して疾病の流行につながります。疾病の原因の見極めを誤ると、対応が後手となり、豚群全体に波及して大きな被害が出ることもあります。適切に対処するには、初動で検査を行い、戦うべき病原体を明確にすることが重要です。

原因を明らかにし早期に疾病を収束

 当該農場は、毎年1~2回の定期的なクリニック検査を実施しています。8月に実施したクリニック検査では、子豚からPCV2が検出されたものの、その時点では事故頭数の増加はなく、PCV2ワクチンも接種していたため、経過観察としていました。

 しかし、10月に子豚を販売していた肥育農場から、当該農場産の子豚で豚サーコウイルス関連疾病(PC VAD)と思われる事故が増加しているとの報告があったため、ワクチン接種日齢を2週齢から4週齢以降に変更しました(表2)。その後、肥育農場での事故は減少しましたが、11月以降、今度は当該農場にて子豚の肺炎が多発し、子豚の育成率が大幅に低下しました(表1)。直近でPCV ADに関連したトラブルが起きていたこと、PRRS予防のため母豚にPRRSワクチンを接種した直後であったことから、農場では今回の「育成率低下=子豚事故率増加」は、PCV2早期感染の影響と考え、子豚用PCV2ワクチンの接種時期を現状の4週齢から2週齢に戻すことを検討していました。

概要

規模:九州管内の母豚100頭規模の子豚生産農場
ケース:豚サーコウイルス2型(PCV2)、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス陽性農場での対応事例

 しかし、状況確認のため12月に農場に立ち入りしたところ、発育不良(いわゆる“ヒネ豚”)は見られるものの、呼吸促迫や結膜炎など、PRRSを疑う臨床症状が多く見られた一方で、解剖豚ではPCVADで特徴的な肺の病変や、そけいリンパ節の腫大などの症状が認められませんでした。

 これらの所見から、PCVADよりもPRRSウイルスによるウイルス性肺炎が疑われました。ただし、PCV2とPRRSウイルスは免疫力を低下させ、さまざまな疾病と複合感染を起こすため、臨床所見だけでは判断がつかない場合もあります(表3)。そこで、今回の子豚事故の増加に関与している病原体を明確にするため、血液及び解剖した豚の臓器を用いてクリニック検査を実施しました。

検査結果に合わせて適切な消毒を実施

 検査の結果(表4)、子豚の血液からPRRSウイルスが検出され、肺からもPRRSウイルスと各種肺炎原因菌が検出されました。一方で、肺や血液からPCV2は検出されませんでした。これらの結果から、今回子豚で事故が増加したのは、PRRSとそれにともなう二次感染の細菌が原因であると考えられました。

 そこで、消毒の強化(ヨード系消毒薬を用いた空間消毒+消毒薬噴霧による湿度の確保)、二次感染防止のため人工乳前後期に抗生物質添加、気温を見ながらの換気実施など、PRRSとそれにともなう二次感染の病原菌をターゲットに対策を集中しました。PCV2対策に関してはワクチン接種時期を含め、変更しませんでした。

 対策の結果、表1のように育成率は急速に改善しました。検査によって戦うべき病原体をはっきりさせたことによって、被害を最小限に抑えることができたと考えられます。

まとめ

 今回紹介した事例のように、PCVADとPRRSはどちらも免疫力の低下を引き起こし、さまざまな病原体と混合感染を起こすため、見た目では判断できないことが多い疾病です。当該農場では、毎年定期的に検査も行っており、農場に存在する病原体を把握していたことも迅速な対応につながりました。

 検査には費用がかかりますが、適切な検査とデータの積み重ねは検査費用以上のコストメリットをもたらしてくれます。さまざまな資材が高騰する中で、ワクチンや抗生物質の費用も上昇しつつあります。検査を通して確実に効果がある衛生資材、対策を選定することが経費の節減にもつながりますので、検査の活用をぜひ一度ご検討ください。

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