「夏場対策のポイント」
卵殻質の低下と暑熱対策

2023.04

 気象庁から発表された季節予報によると、今年の夏は平年並みか平年よりも暑くなる可能性が高く、今年も厳しい暑さが予想されます。本号ではより一層過酷になっていく夏場の暑さと、採卵鶏の生産性への影響、その対策についてご紹介します。

養鶏研究室

地球温暖化で気温上昇

 世界規模の地球温暖化の影響により、日本でも全国各地で気温上昇が認められています。東京都の年平均気温について見てみると、この100年で約2℃上昇しており、昨年6〜8月の平均気温も、100年前と比べて数℃高まっていることが分かります(図1)。

産卵成績や卵殻質への影響

 夏場は外気温が高く、鶏の体温維持に必要なエネルギーが少なくてすむため、飼料摂取量が落ちます。採卵鶏の飼料は週齢に合わせて、産卵に必要な栄養の理想的なバランスを追求した設計となっているため、摂取量が落ちることで栄養が不足しがちとなり、産卵成績が低下しやすくなります。

 また鶏には汗腺がなく、体にたまった熱を放出させるために呼吸を早め、口から熱を逃がす「パンティング」を行います。呼吸が早まると体内の重炭酸イオン(HCO3-)が二酸化炭素CO2として過剰に排出されてしまいます。その結果、血液中のpHが7.4から7.7まで上昇し、血液がアルカリ性に傾きます。血液pHが上昇すると、卵殻形成のためのカルシウム運搬にかかわる酵素の活性が低下して、卵殻形成に異常をきたし、産卵成績の低下や卵殻質の悪化を招くことが分かっています(図2左)。これらの現象は鶏の体内での酵素反応の低下が原因のため、飼料や飲水中へのカルシウム補給では改善されません。

 当研究室で飼養する白玉鶏群のうち、成鶏舎移動の季節(夏と冬)が異なる2ロットを比較したところ(図3)、冬に成鶏舎へ移動したロットが、赤い点線で示した夏場(6〜8月)を迎える週齢で、舎内温度の上昇により、卵殻の形成に異常が生じ、卵殻強度、卵殻厚が低下していることが分かります。

重曹などを用いた暑熱対策

 パンティングで失った重炭酸イオンを補給するのに最も効率的なものは重曹(炭酸水素ナトリウム)で、安価なため幅広く用いられています。飼料中に夏場対策として重曹を添加している場合もありますが、添加していない場合は飲水タンクに0.2%添加すると、夏場の卵殻質低下を防ぐことができます(図2右)。夏季に飼料への重曹添加試験を実施したところ、卵殻強度や卵殻厚が改善しました(図4)。重曹を使用する際の注意点としては、飼料中に重曹を添加すると、飼料中ミネラル分が高くなりすぎて飲水量が増加し、軟便を引き起こす可能性があるため、あらかじめ飼料中に含まれるナトリウム源(食塩など)を調整する必要があります。

 その他、重曹以外の暑熱対策資材の使用も有効です。混合飼料フェスタ(科学飼料研究所)などの抗酸化成分を含む資材や、摂食量が落ちる夏場に不足しがちなアミノ酸やビタミン、ミネラルを含んだ資材を給与することにより、産卵成績の低下を最小限に抑えることが期待できます。混合飼料フェスタでの夏場対策に興味のある方は、お近くのくみあい飼料までお気軽にお問い合わせください。

 また、飲水での対策として、飲水温度を下げることが有効です。鶏舎外の配管に直射日光を当てないように寒冷紗を設置したり、ニップルライン内の水を定期的に入れ替え、ぬるくなった水を排出したりする方法があります。その際、配管内部にノロ(ヌル)が発生している場合は入れ替え時の水流により、ノロがはがれてニップルが詰まる可能性があるため、夏場前の点検と定期的な洗浄を心がけましょう。

給餌方法での対策

 飼料摂取後は体温が上昇し、2〜3時間ほどでピークに達するため、この時間帯が気温上昇のピークに重なると、熱死のリスクが高まります。そのため極度に気温が高まる場合には、午前中の給餌を停止し、体温上昇と気温のピークが重ならないようにすることも有効です。採卵鶏では気温の下がった夜間に給餌することで、暑熱によるストレスを抑えながら、夏場に低下する飼料摂取量を補うことができます。

採卵鶏における夜間給餌方法の一例

①消灯から4時間後に1時間の点灯と給餌を行います。

②翌朝まで3〜4時間消灯します。

③やめるときは2週間かけて点灯時間を3〜4日ごとに15分ずつ短縮し、元に戻します。

④産卵リズムの乱れを防ぐため、3カ月以上継続しないようにします。

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