JA全農 家畜衛生研究所
クリニック検査活用で子牛事故率を改善

2023.04

 子牛の事故は母牛、環境、飼養管理方法などさまざまな要因によって引き起こされます。子牛事故率の改善には、原因をひとつひとつ調査し、それに対処することが重要です。今回はクリニック検査を活用し、子牛事故率を低減した黒毛和種一貫経営農場の事例をご紹介します。

子牛の死廃事故

 黒毛和種繁殖農家や一貫経営農場において、子牛の事故は経営に直結する大きな課題です。農林水産省ホームページの家畜統計と家畜共済統計表から算出すると、生後6カ月未満の黒毛和種子牛の死廃事故は2013年~17年の間、5~6%で推移しており、事故率の低減が重要といわれています。
 子牛の死廃事故は分娩時だけでなく、妊娠末期の母牛の栄養状態、生後すぐの飼養環境、初乳の摂取状況、下痢や呼吸器病の発生など要因はさまざまで、まずは原因の特定が重要です。

農場の問題点

 本農場は母牛150頭規模の黒毛和種一貫経営農場で、子牛は親付け哺乳を行っています。生後3カ月以内の子牛の事故率が、生後すぐの下痢や牛呼吸器病症候群の罹患によって15%程度に達していることが課題でした。
 農場を訪問し、母牛の栄養度(ボディコンディション)を測定して栄養状態を調査したところ、痩せ気味でした。また、母牛頭数増加に伴い、分娩房の数が足りておらず、子牛は生後すぐに下痢を起こしている個体が多い状況でした。さらに、下痢や肺炎罹患時の隔離用 のハッチを消毒せずに使い続けており、新たに入れた子牛の状態が悪化してしまうことがありました。 このことから、母牛の栄養状態と子牛の免疫・栄養状態・飼養環境が主な子牛の事故原因として考えられました。
 子牛事故率の原因を調査するため、虚弱子牛の原因となる母牛の栄養状態を調査できる母牛代謝プロファイルテスト、初乳の摂取状況を確認することができる生後1週齢子牛での血清IgG(lgG)検査などを実施しました。
 母牛代謝プロファイルテストでは、妊娠末期、授乳期、維持期の3ステージに分けて各ステージ5頭以上を目安に採血し、分析しました。その結果、妊娠末期では血中遊離脂肪酸(NEFA)の上昇が見られ、この時期のエネルギー不足が示唆されました。また、授乳期では、初乳の質や授乳中の乳質に重要かつ子牛の免疫機能にも関与する、血中タンパク質の指標であるアルブミン(ALB)や血中尿素態窒素(BUN)の低値が確認されました(表1)。
 子牛の免疫状態に関して、良質な初乳を十分量摂取した子牛のIgGは10g/L以上といわれていますが、本農場ではそれらの基準に満たない子牛がいることが判明しました(図1)。また、生後2カ月以内の子牛の下痢の原因として、クリプトスポリジウムやコクシジウムなどの原虫が検出された一方で、ロタウイルスやコロナウイルスなどのウイルスの関与は否定されました。

子牛の事故率の低減に向けて

 生後すぐの黒毛和種子牛の体脂肪率は3%ほどともいわれ、不十分な初乳の摂取や初産牛の乳量不足などにより十分な栄養が得られないと、生後2、3日でエネルギー不足による免疫力低下や活力低下が引き起こされるといわれています。そのため、生後すぐの衛生環境に対する抵抗力の獲得や栄養状態の改善のためにも、母牛の妊娠末期の栄養状態と初乳の摂取状況の確認も農場の病原体のモニタリング同様に重要です。
 本農場では、まず母牛の栄養状態を改善するため、給与体系の見直しを行い、妊娠末期と授乳期、維持期において配合飼料の増給を実施しました(表2)。あわせて、衛生環境改善のため新しい牛舎に母牛の分娩房を作成し、母牛の移動前は消毒や乾燥を行うため1週間の空房期間を設定し、移動後の逆性石鹸系消毒薬での消毒に加えて消石灰の散布を行いました。
 子牛については、母牛の初乳に加えて免疫グロブリン量の多い「さいしょのミルク」の給与、ハッチの洗浄・消毒、下痢発症時の治療方法の変更や抗コクシジウム剤給与の給与時期を早めました。「さいしょのミルク」の追加給与は、特に初産牛で不足しやすい初乳からの免疫物質を補い子牛の免疫力を強化するためで、実際に10g/L以下だった血清IgG濃度が18g/Lに増加していることを確認しました(図1)。

対策後の状況

 これらの対策により、子牛は清潔な環境で分娩を終えることができるようになり、初乳をきっちりと摂取することで十分に免疫を獲得し、病原体に対する抵抗力を高められました。結果、事故につながるような疾病への罹患が抑えられ、順調に発育することができ、事故率は前年の約15%から約5%まで低下しました(図2)。農場では今回の対応で飼養管理の重要性を理解し、農場全体の衛生管理レベルを底上げすることができました。
 ワクチン接種や投薬治療を行っても子牛の問題が改善しない場合もあると思います。根本的な問題把握や予防対策の立案などは、管轄のJA・経済連・くみあい飼料・県本部にご相談ください。

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