人材確保・育成に注力 人も豚もストレスない経営目指す
養鶏と米の2本柱の経営 地域になくてはならない農業を/宮城県 有限会社ピッグ夢ファーム

2024.02

有限会社ピッグ夢ファーム

代表取締役:佐々木 了さん
住所:本社・宮城県登米市豊里町新田町81-1
   農場・宮城県遠田郡涌谷町小里字上剣崎45
母豚数:380頭
年間出荷頭数:9000頭(全量「宮城野豚みのり」)
従業員数:11人
HPはこちら

 宮城県登米市の有限会社ピッグ夢ファームは、Webなどを活用した積極的な人材募集で若い従業員を確保し、系統組織と連携した手厚い研修で、農業経験のない新規採用職員の育成に注力している。職場のウェル・ビーイングの実現に加え、豚のストレスを軽減するアニマルウェルフェアの取り組みも実践。宮城県のオリジナルブランド「宮城野豚(ミヤギノポーク)」の最上級豚肉「宮城野豚みのり」を生産し、県共進会では上位賞を長年獲得し続けている。

佐々木代表㊥と人気焼肉店「ホルモンこてつ」の店主

若者多く元気な養豚場 農業未経験でも手厚い研修

 仙台駅から車で北東に約1時間。大崎平野の広大な水田地帯に20、30代の若い従業員が多く働く元気な養豚場がある。昨年8月に兄のあとを継いだ佐々木了さんが代表取締役を務めるピッグ夢ファームだ。全農ハイコープ豚(LW)と県が改良した「しもふりレッド」(D)を掛け合わせた三元豚を母豚380頭規模で飼養。仕上げ期に米を配合した飼料を与える、県の最上級豚肉ブランド「宮城野豚みのり」として、年間9000頭を出荷し、県内のAコープや仙台市の有名焼き肉店などで人気を集めている。

54歳で突然のUターン 想像以上に厳しい経営に直面

佐々木代表
「従業員がとても頑張ってくれています」

 ピッグ夢ファームは現代表の祖父の代から養豚業を営み、父の章一さんは宮城野豚銘柄推進協議会の副会長を務めるほど県養豚業を代表する農家だった。父のあとは兄の竜生さんが継ぎ、弟の了さんは上京して就職。長年、大手IT企業で働き、数百人の部下を抱えるほど活躍していた。そんな佐々木代表に転機が訪れたのは昨夏。竜生さんが急病を患い、養豚場の存続が危ぶまれる事態に直面。それまでは全く就農する気はなかったが、「代々営んできた家業を廃業にしたくない」と急遽地元に戻り、54歳で就農した。

 養豚は労働環境や体力面が厳しい大変な仕事だと認識していたものの、実際に就農してみると、想像以上に施設の老朽化や人手不足、飼料高などギリギリの経営状況にあった。それでも、「自分たちで会社を守っていこう」と、一人で何役もこなして養豚場を切り盛りする石川和場長らの懸命な姿に心を打たれた。佐々木代表は「頑張ってくれている従業員を守りたい」と、経営者として自分にできることをやり、経営を再建していくことを決意した。

3カ月で5人の若者を確保 系統挙げて育成を支援

 まず取り組んだのが人材の確保だ。もともとは地域のハローワークのみの募集で、従業員数は定員の半分の5人まで落ち込んでいた。そこで、短期間で人材を確保しようと、5つの対策(表1)を短期間で次々に実施した。

 また、従業員の幸せを追求する「ウェル・ビーイング」の実現が経営義務だと考えてその精神を企業理念(表2)に盛り込み、「豚がストレスなく健康に生活できること」という経営方針も明確にした。理念や方針の策定、HP制作やWeb求人にあたっては、前職の経験も生きたという。その結果、それまで募集してもほとんどなかった応募が大きく増え、3カ月で20、30代の5人の採用に成功。佐々木代表は「あらゆる手段を使って募集しました。3カ月で経営課題の第一段階をクリアできました」と振り返る。

 ただ、全員が養豚どころか農業未経験者で、基礎からの指導が不可欠だった。しかし、ぎりぎりの状態で働くベテラン従業員に、「指導でこれ以上負担をかけられない」と考え、父の代から来てくれていたJA全農北日本くみあい飼料株式会社の後藤嘉信獣医師に相談。養豚全般の基礎知識の習得に向け、後藤獣医師が講師となり、昨冬から毎月勉強会を開催することになった。さらにその後、JA全農家畜衛生研究所クリニック北日本分室や県家畜保健衛生所などの協力も得て、勉強会の質向上を図ってきた。当初は初歩的な豚の品種や発育、飼料給与について指導してもらっていたが、1年経った今では従業員がテーマについて考えて提案するなど、知識だけでなく意識も高まっているという。

 ベテランと若手が切磋琢磨し、全体のレベルの底上げにつながっている。それだけでなく、人手不足解消と外からの手厚いサポートで、会社全体に活気が戻ってきた。一時5%まで増加した肥育舎での事故率は3%に改善。衛生状態が改善されたことで肺病変スコアも改善し、年8500頭まで減少した出荷頭数も9000頭に近づいている。2023年度の県総合畜産共進会(肉豚の部)では、第1区で名誉賞(農林水産大臣賞)に輝いた。石川場長は「以前はぎりぎりの運営で、神経がすり減る状態でした」と振り返り、「短期間で5人も確保でき、勉強会などで育成にも協力してもらえて助かりました。今はみんなで楽しく仕事ができています」と顔をほころばせる。

石川場長
「若手が増え仕事が楽しくなりました」
月1回の勉強会

AW重視し、暑熱対策徹底 9千頭出荷、上中率9割目指す

人気店ホルモンこてつ

 アニマルウェルフェア(AW)も重視し、暑熱・寒冷対策も強化した。もともと暑熱対策の意識は高く、1998年頃には他農家に先駆けてクーリングパドシステムを導入。さらに、今年の記録的な暑熱を受けて、全豚舎の屋根に石灰を塗布し、分娩舎の屋根の張替えや壁面改修、換気扇増設等を行った。寒冷対策では分娩舎と育成舎にジェットヒーター、分娩舎にコルツヒーターやゴムマットなどを設置し、肥育舎では床暖房も導入。他にも、各豚舎のカーテンを毎日3回以上調整し、豚が快適に過ごせるように細かく温度を調整している。

 父の代からこだわってきたのが、子豚への手間を惜しまないことだ。「子豚をしっかり育てなければ、いい肉豚にはならない」との父の教えから、A段階飼料を与える期間を長くし、育成舎から肥育舎への移動のタイミングを体重40㎏と少し大きめに設定している。温度管理が十分なウインドウレスの育成舎に長く置くことで、品質の高い豚肉を生産している。

 生産費の高騰など厳しい状況が続いているが、系統組織と連携して生産性を高め、今後は年間9000頭超の出荷、上中率90%以上の実現を目指す。人手不足で一時利用が中断していたWeb PICSの利用を復活させ、課題分析や経営改善に生かしていきたい考えだ。

 また、独自の販売先は現在、仙台市の人気焼肉店「ホルモンこてつ」のみだが、新規の販売先の開拓も模索している。佐々木代表は「生産面では飼養管理のスキル、生産性を高め、将来的には繁殖成績を改善するために精液の自家採取にも取り組みたい」とする一方、「東京でもいろんな豚肉を食べてきたが、宮城野豚みのりは脂があっさりとしたうまみがあり、自信を持っておいしいと言える。現在は県内が中心だが、今後は県外、首都圏での販売も目指していきたい」と抱負を語る。

JA全農家畜衛生研究所クリニック北日本分室の田口仰星獣医師(右)から
衛生管理について指導を受ける従業員
カーテンは1日に3回以上調整
猛暑対策もしっかり
豚が快適に過ごせるように気をつかった豚舎

A&COOP松島店

地元のおいしい豚肉として定着 白くてあっさりした脂が人気

 「宮城野豚」や「宮城野豚みのり」を地元消費者に販売するお店の一つが、県内のA&COOPだ。ピッグ夢ファームの豚肉は松島店(松島町)で購入できる。同店では、豚肉コーナーの大部分をピッグ夢ファームの「宮城野豚みのり」が占めるほど、地元産の定番商品として定着。特に売れているのがバラや肩ロースで、脂があっさりしていてくどくないため、焼肉やしゃぶしゃぶ用の肉として人気を集めている。

 同店の精肉担当者によると、「脂が白くてきれい」「焼いたときに臭みがなく、脂までおいしい」などと好評で、月50頭超分が売れるという。豚肉生産コストが高止まりする中、枝肉単価に価格帯を設けることで、生産者をサポートしている。

脂が白くきれいと評判の「宮城野豚みのり」

A&COOP松島店

「宮城野豚みのり」が並ぶ豚肉コーナー

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