第41回全農酪農経営体験発表会
酪農の“未来を創る”ため、優良事例を共有

2024.04

 酪農経営の優良事例を発表する「全農酪農経営体験発表会」。41回目の今回は、全国5組の優れた酪農家と酪農家を支える組織が、日頃の取り組みを発表。厳しい酪農環境を業界一丸で乗り越えていくための方策を探った。

 同発表会は、JA全農酪農部が主催。これまでは地域のモデルとなる酪農家の優良経営事例を表彰してきたが、今年度は酪農家と酪農家を支える組織の優良事例を発表する場へと変化した。副題の「未来を創る 酪農のなかま」には、酪農に関わる多くの人と明るい未来をつくっていこうとの想いを込めた。
 JA全農の齊藤良樹常務理事は、記録的な猛暑、生産コストの高止まりや子牛相場の下落等の厳しい情勢に触れ、JAグループとして配合飼料安定基金の堅持や自給飼料の利用拡大に取り組むことを強調。需給拡大に向け、「『牛乳でスマイルプロジェクト』などによる消費者の理解醸成、市場の活性化等に加え、生産基盤を維持するためにも業界が一体となって取り組んでいきたい」と力強く話した。審査講評では、審査委員長の日本獣医生命科学大学・小澤壯行教授が「先駆的な取り組みが多く、私たち審査員も学びがあった。発表から得られたものは少なくないと確信している」と話した。

JA全農
常務理事 齊藤良樹
審査委員長
日本獣医生命科学大学 教授 小澤 壯行

北海道

家畜個体識別をキーとした「家畜統合管理システム」 の取り組みについて

 JAひがし宗谷では、個体識別情報を核として、酪農支援組織や団体が所有する各種データを統合し、一元管理できる「家畜統合管理システム」をクラウド環境に構築した。システムの活用で授精申請の手配漏れ等を防ぎ、初回受胎率が5%向上。生乳生産成績もリアルタイムで確認できるため、成績不振時の外的要因も特定しやすくなり、営農指導にも役立っている。

講評

 組織の壁の中に隠され、いわば分断されていたデータを統合し、クラウド上で運用している本取り組みは、先駆的で高く評価できる。

JAひがし宗谷
営農部 石黒 敦

岩手県

酪農ヘルパーの人材確保に向けて~職業認知度向上のための岩手県の取り組み~

右 / 全農岩手県本部
畜産酪農部酪農課 奥平 真生

左 / 葛巻町酪農ヘルパー利用組合
チーフ 木戸場 真紀子

 岩手県では、酪農ヘルパーの人材不足が深刻な課題となっている。以前は就農希望者がヘルパーで経験を積んだが、近年では会社化している牧場に就職する人が増えてきたことなどが要因だ。岩手県本部では酪農ヘルパーの認知度向上を目指して、酪農ヘルパーのHPやCM、つなぎ等を制作。就活イベントにも参加し、インターンの受け入れを積極的に行ったことで5名の採用が実現した。

講評

 酪農ヘルパーを新しい職業という位置付けで広報活動を展開している点がユニークであり、他の地域の参考にもなる取り組みだ。

宮崎県

地域酪農を支える預託牧場~生産者と一体となった理想の酪農組織を目指して~

 宮崎県酪農公社では、預託牧場を運営する他、自給飼料約1,000tをTMR飼料にして供給し、県内酪農家を支えている。預託期間は生後1カ月~分娩2カ月前までで、飼養頭数は906頭(令和5年3月末時点)。事故が起きた場合でも代替牛か共済金のいずれかを選ぶことができる。上原牧場は預託事業を活用して、省力化や初期投資の抑制を実現し、経営改善につながった。

講評

 3部門(乳用牛、肉用牛、飼料生産)の導入は経営リスクの回避はもとより、新たな収益部門の形成という点でも高く評価できる。加えて、代替牛を提供するシステムは素晴らしい。

右 / 宮崎県酪農公社 今井 弘高

左 / 上原牧場 上原 和博

神奈川県

「地元で酪農経営をしたい」神奈川県初の新規参入・第三者継承の道のり

右 / リトルリバーファーム 小川 翔吾

左 / 神奈川県畜産技術センター
企画指導部普及指導課長
仲澤 慶紀

 地元での就農を目指し、第三者継承で新規参入したリトルリバーファームの小川翔吾さん。県で前例のなかった第三者継承に向け、神奈川県畜産技術センターが中心となり、秦野市、市農業委員会、JAはだの、公庫が連携して「酪農事業継承会議」を設置。課題を洗い出し、継承希望者、移譲希望者、関係機関の全員が納得できるようにサポートした。

講評

 行政が継承に積極的に関わり、解決の道を拓いた。今回のケースは他の都府県における酪農新規参入でもおおいに参考になり、導入すべきシステムだ。

島根県

地域に開かれた酪農経営~200年後も残る牧場を目指して~

 大石亘太さんは木次乳業の新規就農者支援事業に応募し、牧場用地取得、牧場研修、中古設備調達のための情報連携等の支援を受け、2014年に就農した。「牧歌的な酪農」を目指し、放牧を取り入れた酪農を実践。竹林を焼き畑で放牧地に変える環境保全の取り組みの他、教育ファームやバターづくり体験等、子ども達の酪農理解の醸成や観光資源の創出にも取り組んでいる。

講評

 地元乳業メーカーを核とする担い手確保、育成が見事に結実している好事例。地元観光協会や大学との取り組みに大石さんの人柄が表れている。

ダムの見える牧場
大石 亘太

第17回全農学生「酪農の夢」コンクール・発表会特別企画

第17回全農学生「酪農の夢」コンクール・発表会特別企画

 第17回全農学生「酪農の夢」コンクール表彰式も同時開催された。本年度は159作品の応募があり、前回の1.5倍に増加した。審査委員で龍谷大学農学部の淡路和則教授は「多くの作品から酪農を維持・発展させていきたいという想いが感じられた。酪農コンクールで勝ち抜いたというより、酪農を支えたい159人の代表だと思いたい」と話した。
 最優秀賞には静岡県立藤枝北高等学校の半田花楓さんの「牛ロスから考えること」が輝いた。優秀賞は中国四国酪農大学校の本部琴海さん、北海道剣淵高校の小泉天花さん、栃木県立那須拓陽高校の和田蓮音さんが選ばれた。
 表彰後に行われた酪農家・学生・指導教員による座談会では、酪農という職業のやりがいや喜び、消費拡大に向けた取り組みについて意見を交わした。

 特別企画として、第35回の体験発表会で優秀賞・特別賞を受賞した富澤裕敏さん(群馬県・富澤牧場)と、全農酪農部の酪農理解醸成イベントに協力している北出愛さん(北海道・山岸牧場)が登壇し、特別講演を行った。


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