哺育・育成時期のへい死頭数「ゼロ」の取り組み(後編)
健康な子牛を育てるための飼養管理・衛生管理のポイント

2021.10

 前号に引き続き、JA全農長野県本部三岳牧場の哺育・育成期の飼養管理について紹介します。
 前号では主に出生直後から農場導入までの飼養管理及び哺育期の給与飼料・給与体系ついて紹介しました。
 今号では、同牧場で取り組んでいる飼養管理・衛生管理のポイントについて紹介します。

子牛を冷やさない、暖める環境づくり

 前号でも紹介した通り、JA全農長野県本部三岳牧場〔常時哺育・育成飼養頭数80頭、従業員数5人(うち常時従業員3人)〕では、地域の酪農協及びJA全農長野八ヶ岳牧場と連携し、乳牛の借り腹を利用し、受精卵による和牛生産に取り組み、酪農場で生まれた和牛子牛をすぐに引き取り、哺育・育成をしています。

 生まれた子牛は寒さに弱いため、体温の管理には十分な注意を払っています。酪農場から輸送する際も体温を下げないように子牛を麻袋に入れ、車内は暖房をつけながら運びます(前号で紹介)。農場に到着した後も子牛を暖かい環境下で管理することが体温を下げず、病気を起こさせないために重要です。寒い時期は、牛舎内はストーブを使用し、温度が一定になるようにするほか、子牛には導入後、カーフジャケットを着せ、コルツヒーターを1頭ごとに設置しています(写真1)。また、牛床からくる冷えを防ぐ対策もしています。敷料を敷いても子牛がかき分けて直接コンクリートに触れてしまうことがあります。そのため、敷料の下にマット等を敷くことにより、子牛が直接コンクリートに触れないようにしています(写真2)。敷料は毎日交換していますが、全て取り換えるのではなく、糞尿で汚れている部分を中心に交換することで、牛体を清潔に保ちながら、冷えないように気をつけています。

写真1.子牛の保温の様子(赤枠がコルツヒーター)
写真2.敷料の下に敷くマット
写真3.天井からの水滴(写真左;赤枠部分から落ちてくる、写真右;床面の状況)を防ぐため、ハッチ上部をビニールシートで覆っている

 牛舎内の寒暖差により牛舎の天井から水滴が落ちることがあります。水滴が子牛に当たると体を冷やし、牛床を汚す原因となってしまうため、ハッチ上部をビニールシートで覆うことで天井から落下する水滴を防ぎ、更に防寒対策にもつながっています(写真3)。

牛舎・牛房の衛生対策

 ハッチや牛房は、ホームセンターで手に入る資材を使用しています。子牛を移動した後、使用したハッチや牛房は必ず洗浄、消毒を行っていますが、簡単に組み立て、解体できるため作業性が非常に良いのが特徴です。これらの資材は特注品ではなく、安価で、従業員が簡単に素早く部品の交換ができることもポイントです。
 牛を移動した後の牛房の清掃、消毒も徹底して行っています。使用したマットや残っている敷料は隅々まで取り除いています。牛柵やません棒も1本ずつ、こびりついた糞や汚れを削り落とし、牛柵やません棒を加熱することで除菌を行い、消毒し、次の導入に備えています(写真4)。

写真4.空舎後の清掃作業の様子とバーナー。牛柵を1本ずつ丁寧に汚れを落とし、バーナーで殺菌を行う

 数頭の子牛が咳の症状を示す場合は、金属類、各種器材類に対する腐食性が少ない消毒剤を噴霧器で牛舎全体に散布し、早期の対策を実施しています(写真5)。 

写真5.牛舎内の消毒用噴霧器

子牛の健康管理と早期発見

写真6.哺乳バケツとハッチの間仕切り

 導入直後は子牛同士の接触による細菌・ウイルス感染に気をつかっています。ハッチの間に仕切りを設け、子牛ごとに専用の哺乳バケツを使っています(写真6)。バケツの乳首が使い回しにならないように、使用する頭数分よりも多くバケツを揃えています。以前は哺乳瓶を使用していましたが、子牛が突いて落とすこともあったため、哺乳バケツを使用することで、ハッチに固定でき、落とすことがなくなり、衛生的に良くなりました。
 子牛の健康状態は毎朝、作業開始前に牛舎内を一回りし観察します。若い牛ほど体調管理には気をつかっており、生後1カ月齢までは1頭、1〜2カ月齢は2頭1群、3〜4カ月齢は3頭1群と摂取量や健康チェックがしやすいように管理しています。万が一、体調の悪い子牛が見られれば、契約をしている獣医師にすぐに連絡をとり、早期に診察、処置をしてもらうようにしています。
 従業員が子牛の栄養生理を理解しながら、暖かく、衛生的な環境をつくっていることがへい死頭数「ゼロ」につながっていると考えられます。今年もまもなく寒い時期がやってきます。寒さ対策のヒントとして取り組んでみてはいかがでしょうか。

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