高校牛児 コロナに負けず技術研鑽
高校牛児 コロナに負けず技術研鑽:第5回和牛甲子園

2022.04

和牛の生産を学ぶ高校生が日頃の活動成果と飼育技術を競う「和牛甲子園」が1月21日、東京・大手町で開催された。コロナ禍で2年連続のオンライン開催となったが、初出場の5校(※P25)を含め、昨年を上回る35校が50頭を出品。“高校牛児”らはインターネットを介した活動発表や出品牛の枝肉共励会、情報交換会などで交流を深めた。

画面越しに昨年の優勝校・鹿児島県立市来農芸高校から
優勝旗の返還を受けるJA全農・齊藤良樹常務理事

3回目の出場で栄冠「総合部門」最優秀賞 愛知県立渥美農業高校

総合優勝を果たし、満面の笑みを浮かべる愛知県立渥美農業高校の学生の皆さん

「最優秀賞を取れるなんて本当に夢にも思っていませんでした。牛に愛情込めることをとにかく一番頑張りました。毎日牛舎に通うことが楽しく、あっという間の3年間で、楽しさいっぱいで辛いことはなかったです。牛を育てる魅力は、自分も人間として成長できること。将来は、牛を育てていけるような仕事につきたいです」

(愛知県立渥美農業高校の皆さん)

 全国の高校をインターネットでつなぐ情報拠点となったJAグループ運営「アグベンチャーラボ」(東京・大手町)にはモニターやパソコン、カメラセットが立ち並び、さながらテレビ局の収録スタジオの雰囲気。会場の司会者と、大画面に映し出される発表者が対話する形式で大会は進行した。

 開会式では前回の総合部門最優秀賞校、鹿児島県立市来農芸高校が優勝旗を返還した。〝入場行進〟として出場各校の紹介動画を切れ目なく放映し、山口県立大津緑洋高校が「日頃の取り組みを発表できることに感謝し、出品した牛の命に感謝し、全力でこの大会に臨みたい」と力強く選手宣誓した。

 JA全農の齊藤良樹常務理事は主催者を代表し「仲間の創意工夫を学ぶことは皆さんの成長につながるものと確信している。活動の共有を通じて全国の仲間と出会うきっかけになってほしい。牛飼いを通じて素晴らしい経験をし、牛飼いになるという選択につながってくれれば私どもの大きな喜び」と〝牛児〟らにエールを送った。

短期肥育に手ごたえ(広島・西条農高)
枝肉の肉量感で圧倒(鹿児島・曽於高校)

 本大会は、和牛の飼養管理における取り組みや創意工夫、チャレンジなどを発表する「取組評価部門」(体験発表会)と、飼育した和牛の枝肉の品質を競う「枝肉評価部門」をそれぞれ50点満点で審査し、両部門の合計得点で「総合評価部門」の最優秀賞が決定する。

 取組評価部門の最優秀賞は、広島県立西条農業高校。「プロジェクトZ」と銘打ち、和牛農家の経営改善につながる短期肥育に挑戦した。食肉市場で市場調査を実施し、「出荷月齢が若すぎると味が薄い」などの課題を把握。美味しさの指標となるMUFA値の高い牛肉生産を目指し、栄養豊富な「赤ぬか」を地元の酒造メーカーからもらって牛に給与した。給餌方法を試行錯誤した結果、採食性が良く順調な増体重を得つつ、MUFA値の向上を実現し、「平均的な出荷より4カ月齢短い肥育期間で出荷でき、1頭あたり1.5t(約9万6000円相当)の飼料を削減できる」と報告した。

取組評価部門最優秀賞の広島県立西条農業高校の皆さん
枝肉評価部門の最優秀賞の鹿児島県立曽於高校の枝肉断面

 枝肉評価部門の最優秀賞は、鹿児島県立曽於高校。出品牛は枝肉重量601kgの去勢牛で、ロース芯面積100cm2、バラの厚さ11.7cmを記録し、審査委員から「圧倒的な存在感と肉量感。よくここまで育て上げた」と称賛の声が上がり、全会一致で最優秀賞に選ばれた。審査講評では「すべての筋肉が厚く大きく、特にバラの腹鋸筋(ふくきょきん)が非常に充実している。筋間脂肪が薄く、脂肪交雑、小ざし、中ざしが十分に細かく入り、一般の出荷でも全国チャンピオンクラス。よくここまで育て上げた」と評価された。審査後の共励会では1kg4305円と破格の高値で競り落とされた。

枝肉評価部門の最優秀賞の鹿児島県立曽於高校の皆さん

 生徒らは受賞の発表を聞き「全員で愛情込めて育てたので、とてもうれしい」と感激の涙に声を震わせながら、「暑熱対策や食い止まりに注意しながら育てた。今後も一生懸命に管理に努め、来年も良い結果が残せるよう頑張りたい」と誓った。

鹿児島県立鹿屋農業高校の皆さん
栃木県立那須拓陽高校の皆さん
鹿児島県立鶴翔高校の皆さん

持続可能な和牛生産へGAP取得 自給飼料、ブランド化も(愛知・渥美農高)

 総合評価部門の最優秀賞は、愛知県立渥美農業高校。枝肉評価、取組評価の両部門で最優秀賞に次ぐ優秀賞を受賞し、3度目の出場で総合評価の全国トップを勝ち取った。

 同校は「持続可能な和牛生産」をテーマに、肉用牛でのJGAP認証取得と休耕田での自給飼料生産に挑戦した。農場管理を見える化し、労働安全、衛生対策、家畜福祉(アニマルウェルフェア)など、家畜にも人にも優しい生産を実践。肉用牛でのJGAP認証取得は愛知県内初だという。

 飼料は休耕田で食用米を栽培して自給を実践し、休耕田の活用や牛の餌の安全性を確保したほか、稲わらの一部を校内の畑に施用して資源の循環につなげた。米は学園祭で販売し、収益向上の可能性も見出した。一連の取り組みを通じ、地元ブランド「みかわ牛」の認定農場として出荷ができるようになり、地元の生産者やJAグループと連携したブランドづくりにも参画。「みかわ牛のPRに全力を尽くしていく」と地域貢献への意欲も示した。

 生徒らは一連の取り組みについて、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)を指標として成果を検証。「SDGsの目標達成につながり、活動を続けることで持続可能な和牛生産への道が開ける」と成果を報告した。

和牛の価値、文化は特別なもの ひとつになれ! 高校牛児

 本大会は5回目を迎え、「発表が年々充実し、レベルアップしている」と審査委員の評価は上々だ。飼育技術も、受賞した出品牛の全てがBMSNo.12を記録するなど、着実に高まっている。取組評価部門の多田耕太郎審査委員長(東京農業大学農学部教授)は、大会を通じた出場校同士のつながりに着目。「県外の高校と交流している高校があり素晴らしい。他校の発表をヒントにした取り組みもあり、想定外でうれしい誤算」と講評した。近年、畜産物は生産面で地球環境への負荷が大きいと指摘されることについて触れ、「和牛の価値は特別なもの。消えるものではなく消してはいけないもの。環境に配慮した飼育に取り組む高校もあった。和牛文化と日本の農業を盛り上げてほしい」とエールを送った。

 閉会後に設けられたオンライン交流会では、興奮冷めやらぬ生徒らが画面越しに一堂に会して笑い合い、励まし合う姿が見られるなど大盛況だった。「大会キャッチフレーズの『ひとつになれ! 高校牛児』のように、東京に集まらなくてもオンラインで一緒になれる」という声もあった。

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