「夏場対策のポイント」
黒毛和種繁殖牛への暑熱の影響、施設面からの暑熱対策

2022.06

※「中研」はJA全農飼料畜産中央研究所の略称です。

 気象庁の「暖候期予報」によると、2022年6〜8月の平均気温は全国で平年並みか高くなる確率が80%と予想されています。北日本・東日本・西日本では、平年より高い確率が50%となっています。今号は、①黒毛和種繁殖牛に対する暑熱の悪影響、②施設面からの暑熱対策として、ミストやソーキングの使用について紹介します。

笠間乳肉牛研究室

黒毛和種繁殖牛の乳質に対する暑熱の影響

 暑熱ストレスの影響は、搾乳牛と乾乳牛で異なります。搾乳牛の場合、繁殖性の低下、乳量及び乳成分の悪化を招き、乾乳牛では、分娩後の泌乳期の乳量低下や子牛の生時体重低下を引き起こします。この報告は、主にホルスタイン種から得られたデータですが、黒毛和種繁殖牛においても、暑熱の悪影響は存在していると考えられます。

図1 乳汁のアルコールテストの結果
(乳汁と70%アルコールを1:1の割合で混合)
図2 季節別の乳汁のアルコール不安定乳非発生
(正常な乳汁を産生した)牛の割合

 黒毛和種繁殖牛の暑熱ストレスの影響に関する報告では、異常乳であるアルコール不安定乳を産生することがしばしば確認されています(図1)。

 この乳汁を飲んだ子牛は白痢を引き起こし、健全性を損なうため(岡田ら、1997)、アルコール不安定乳が発生しないように繁殖牛を管理する必要があります。

 アルコール不安定乳の発生原因として、環境(季節)、疾病発症、ホルモン、飼料給与状態などが関与していると報告されています。当室では、繁殖牛の乳汁のアルコール不安定化に季節の影響があるかを調査しました。適温期に飼育した繁殖牛と暑熱期に飼育した繁殖牛の乳汁を分娩後5日間採取し、アルコールテストを行い、正常な乳汁を産生した繁殖牛の割合をグラフ化しました(図2)。暑熱群の乳汁のアルコール不安定乳非発生割合は、対照群より低下しました。このことから、繁殖牛に対する暑熱ストレスは、アルコール不安定乳の発生を誘引する可能性が示されました。

 また、生後5日間の子牛の1日平均増体量(DG)を比較しました(図3)。暑熱群のDGは対照群より低下しました。暑熱群のDGの低下の一因として、繁殖牛の乳汁のアルコール不安定化の増加が考えられます。以上の結果から、子牛の健全性を維持し、発育を良好にするためにも、乳質に着目した繁殖牛の管理は重要なポイントの1つです。

 繁殖牛では、飼料のエネルギー不足やタンパク質過剰により、乳汁のアルコール不安定化が発生することがあります。飼料のTDN(可消化養分総量)充足率がほぼ80%以下で推移した群と、飼料TDN充足率の高かった群では、後者のほうがアルコールテストスコアは低い値を示しました。また、飼料の可消化CP(粗タンパク質)充足率が200%を超えるような高値であった時は、アルコールテストスコアが高い値を示しましたが、可消化CP充足率が低下した時(正常値の範囲内)は低い値を示しました(岡田ら、2001)。給与するタンパク質量が過多である場合、アンモニア過剰生産につながり、肝臓で尿素態窒素へと変換する際にエネルギーを消費するため、タンパク質量の過剰給与はTDN充足率低下の原因にもなります。

図3 季節別の子牛の1日平均増体量

 また、暑熱時のエネルギー要求量は適温時に比べて高くなることが報告されていることから、夏の暑さが本格化する前に飼料内容を見直して、TDNを充足させて今年の夏を乗り切りましょう。子牛に白痢が発生したり成長が伸び悩んでいる場合は、繁殖牛から乳汁を採取し、アルコール不安定乳が発生していないか確認することをお勧めします。

施設関連の暑熱対策とその注意点

 夏場の牛舎内は、牛体や糞尿からの熱や水分により、牛が暑熱ストレスを感じる高温多湿条件下になりやすい環境となっています。そのため、牛舎環境の改善は暑熱対策に非常に効果的です。今回は施設関連の暑熱対策として、ミスト及びソーキングの使用方法とその注意点を紹介します。

 ミストは細かな霧状の水を牛舎、牛に散布し、その水が周囲の熱を奪いながら蒸散することで温度を下げる方法です。図4はミスト散布前後の牛舎、牛体の温度を示しており、温度の低下が確認できます。一方で、牛の暑熱ストレスは、気温よりも湿度の影響が大きいため、高湿度環境下におけるミストの使用は逆効果をもたらすことがあります。使用する際には湿度が上昇しないよう換気を十分に行い、特に牛舎内の湿度が70%を超える場合には使用を控えます。

図4 ミスト使用前後による体温変化
図5 タイストール牛舎におけるソーキングの利用

 ソーキングはミスト冷却とは異なり、牛体を直接濡らし、その後、送風することで蒸散作用により温度を下げる方法です(図5)。ソーキングの注意点として、外気温や湿度に見合った使用をすることが挙げられます。噴水量が1.6L/頭/サイクル(下腹部・乳房に水が滴らない程度)で、25-28℃では15分ごとに、28-31℃では10分ごとに、31℃以上では5分ごとに稼働するようにします。また、ミストと同様に湿度が70%を超える際には使用を控えます。

 夏場は人だけではなく、牛も大きなストレスを感じています。そのため、牛が快適に過ごせるような環境を整えることが大切です。ぜひ今年の夏は、ミストやソーキングの使用方法を見直してみてはいかがでしょうか。

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