飼料価格の高騰など畜産を取り巻く環境が厳しさを増す中、少しでも収益を上げようと黒毛和種胚のET(受精卵胚移植)に取り組む方が増えています。そこで、今回はETにおける胚の取り扱いの注意についてご説明します。

図1 ETに用いる桑実胚(左)と胚盤胞(中央・右)

 牛のETに用いる胚は受精後7日のものが一般的で、胚のステージとしては収縮桑実胚から孵化前の拡張胚盤胞の時期になります(図1)。これらの胚は比較的、外的要因に強いとされていますが、さまざまな要因によって影響を受ける可能性が考えられており、それらを避ける必要があります。

胚への悪影響① 温度変化

対策 しっかりとした温度管理

  • 輸送時は恒温輸送機や保温剤を使用した発泡スチロール箱を使用
  • 移植器も保温し、ETの直前まで温度変化を防ぐ

 胚に影響を与える要因の1つが温度変化です。急激に低温環境あるいは高温環境にさらされると、胚はストレスを感じます。特に冬場は胚にとって適切な38℃前後の環境から逸脱しやすいため、しっかりとした温度管理が求められます。そこで、胚の輸送には恒温輸送機や簡易的に温めた保温剤を使用した発泡スチロール箱などを使用します(図2)。移植器の温度管理も大切です。冬場は移植器が冷えていることが多いので、胚をセットする前に車のダッシュボードに置く、懐や脇に挟むなどして温める必要があります(図3)。また、胚を移植器に充填する際は、農家さんの事務所や車の中など、適温に管理された環境で行うことも重要です(図4)。特に風が当たると瞬間的に温度が大きく変化するため、風対策としても室内で作業することが求められます。そして、ETまでの間は保温できる箱で保管し(図5)、ETの直前は脇や背中に抱えることで、胚を温度変化から防ぐことが重要です。

図2  胚輸送用の保温箱
図4  車の後部座席にて
移植器に胚を充填する
図3  移植器を車のダッシュボードや懐で温める様子
図5 簡易的な移植器保温箱(左)と
ヒーターを備えた加温箱(右)

胚への悪影響② 紫外線

対策 直射日光を避け、光が入らない環境で作業する

  • 紫外線を遮断する蛍光灯やLEDタイプに変更

 次に挙げる要因は紫外線です。紫外線は胚の生存性を大きく損なうことが知られおり、直射日光を避けることはもちろん、可能なかぎり光が入らない環境で胚を取り扱うことが大切です。屋内においても、蛍光灯から一定量の紫外線が出ているため注意が必要です。蛍光灯の光でも胚の生存性に影響したという報告もありますので、よくETをされる方は、紫外線のみを遮断する蛍光灯(図6)や紫外線の少ないLEDタイプに変更することを検討しても良いかもしれません。

 高品質の胚は多少のストレスでは受胎性に問題ないともいわれていますが、ETに用いられる胚は希少性が高かったり、非常に高価であることが多いため、一つひとつ丁寧に扱うことが受胎性の安定にとっても重要です。

図6  紫外線を出さない蛍光灯

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