株式会社丸本×オンダン農業協同組合×(株)だんだんファーム×JA西日本くみあい飼料(株)×Turn Table
地鶏日本一の「阿波尾鶏」多角展開で更なる知名度向上へ

2022.06

「Turn Table」のランチビュッフェで大人気の「阿波尾鶏」の唐揚げ

 夏の風物詩「阿波おどり」で有名な徳島県には出荷羽数全国1位の地鶏がある。その名も「阿波尾鶏」。

 軍鶏の血を引く肉の旨味と適度な歯ごたえ、値ごろ感を売りに支持層を拡大してきた。

 生産・加工・販売を手がける(株)丸本(徳島県海陽町)は、農事組合法人を含めたグループが一体となり、新たな商品開発にも挑戦。

 輸出を含めて多角的に更なる知名度向上に力を入れる。

阿波地鶏とホワイトプリマスロックの交雑から生まれた「阿波尾鶏」

 「阿波尾鶏」は1978年度に、当時の徳島県畜産試験場(現・徳島県立農林水産総合技術支援センター畜産研究課)が開発に着手し、10年以上研究を積み重ねて開発した独自の地鶏品種だ。軍鶏「阿波地鶏」とブロイラー専用種の雌系統「ホワイトプリマスロック」を交雑、旨味成分のアスパラギン酸やグルタミン酸が豊富で熟成度の高い肉に仕上がった。90年の販売開始以来、需要と生産量を順調に伸ばし、98年には全国の地鶏の中で出荷羽数1位となった。

輸入鶏肉の増加で大打撃 飼育方法の確立へ苦労も

丸本グループ代表取締役 丸本敦社長

 開発のきっかけは、70年代にブラジル産ブロイラーなど輸入鶏肉が大量に流入し、県内の養鶏農家などが大きな打撃を受けたためだ。「美味しい鶏をつくってほしい」という現場の切実な声を受けて研究が動き出した。

 丸本では、創業者の丸本昌男さんが開発から携わっており、89年に生産を開始。現在はグループ会社で鶏の肥育を担う直営の「(株)だんだんファーム」や、食肉処理・加工などを手がける「オンダン農業協同組合(農協)」と一体となり、「阿波尾鶏」の生産・加工・販売を進める。生産羽数はだんだんファームと、オンダン農協が飼育を委託している農家の出荷分を合わせて年間91万3000羽(2021年度実績)。県内での生産羽数(160万2780羽)の6割弱に当たる。

 「飼育方法が確立するまでの間、かなり苦労した」と話す社長の丸本敦さん(56)は、音や光にかなり敏感な「阿波尾鶏」は暴れだしたら他の鶏も巻き込んでしまうため、「鶏同士が傷つけ合って商品にならない時もあった」と振り返る。

 「阿波尾鶏」は一般のブロイラーに比べて、発育スピードも異なり、飼育期間も長くなるため、発育ステージ・肉質・生産コストを考慮した飼料が必要になる。このため、JA西日本くみあい飼料(株)では、本社と四国支店が同社と連携し、専用飼料の開発に取り組み、現在の専用飼料体系を完成した。

穏やかな環境が保たれた鶏舎内
西日本くみあい飼料と開発した飼料
だんだんファームの皆さま。生産者の高齢化にともない、若手後継者の育成にも力を入れている

特定JASの体制が奏功 中間価格で引き合い強く

だんだんファーム場長の澤則之さん

 課題解決へ、地鶏肉の特定JAS(日本農林規格)に合致した生産体制も奏功した。産地ぐるみで生産体制を整備し、2001年に全国に先駆けて目標としていたJAS認定を受けた。直営のだんだんファームは現在、28日齢から1m2あたり10羽以下で平飼いし、計80日間以上の期間を経て出荷する。衛生管理も徹底し、例えば次の飼育が始まる前の入れ替えの際には除糞、清掃、水洗い、複数回の消毒の後、おがくずを敷く工程を1鶏舎あたり約1カ月間かけて念入りに取り組む。場長を務める澤則之さん(65)は「軍鶏の血を引くため喧騒性が強くストレスに弱いが、騒音が少なくゆったりとした農場の環境は飼育に適している」と語る。

 また、飼育期間を他の地鶏に比べて短くすることで肉の硬さを地鶏ほど固くなく、ブロイラーほどやわらかくなく、ほどよい固さで提供できるようにしている。これにより鶏舎の回転率が年3・1回となり出荷羽数も増やすことができた。先発の高級地鶏とブロイラーの中間価格という値ごろ感もあり、スーパーや百貨店などの精肉店、外食店などからの引き合いが強い。モモやムネといった部位別の販売にも対応したことが受け入れられた。

 生産出荷体制の整備と消費拡大に取り組む「徳島県阿波尾鶏ブランド確立対策協議会」の関係者と一丸となって粘り強く育て、販売開始から30年が過ぎた。丸本で営業部部長を務める堀内幹夫さん(58)は「地元での評価は味、価格を含めて相当高い」と話す。県内量販店での試食PRなどを重ね、浸透した。「阿波尾鶏」を全面に打ち出した専門店も増え、「徳島県の特産品の中心の1つとしての地位を確立できたのではないか」と手応えを感じている。

株式会社丸本 営業部部長 堀内幹夫さん

 首都圏にもその味を楽しめる店がある。東京都渋谷区にある徳島県のアンテナショップ「Turn Table(ターン テーブル)」のレストランだ。ランチのビュッフェで提供される「阿波尾鶏」の唐揚げはかなりの人気で、山盛りにした皿を日に3回取り替えなければ間に合わないほど。一方、夜は「阿波牛」「阿波美豚」とともに焼いて出す肉プレートの注文が多く、肉好きのお客が舌鼓を打つ。

スタッフの皆さん
レストランの内観
Turn Table専務 酒井大輔さん

 「Turn Table」で専務を務める酒井大輔さん(41)は「ほどよい弾力と甘みが幅広く受け入れられている。首都圏では阿波尾鶏と知らずに食べている人も多いので、より多くの人に良さを知ってもらいたい」と話す。また、同店はこれまで、首都圏の飲食店延べ200店と協力し、「阿波尾鶏」を使ったメニューを提供するフェアを展開。フェア終了後もお店が継続して仕入れるなど、レストランが「阿波尾鶏」や県産農畜産物の首都圏でのPR拠点となっているほか、販路拡大にも貢献している。

 今後もフェアを展開するとともに、地元の徳島県でも首都圏で人気のレシピなどを紹介し、更なる消費拡大につなげていきたい考え。酒井さんは「将来的には、東京で阿波尾鶏のファンになった人に、本場で食べる食の旅を企画し、人の循環もつくっていきたい」と抱負を語る。

徳島県産の農畜産物を購入できる販売ブース
人気のランチビュッフェ

ムネ肉の消費拡大へ 産学官連携の商品開発も

 丸本が生肉の販売だけでなく加工食品の商品開発に力を入れるのは、モモ肉に比べて生肉として需要の低いムネ肉の消費拡大を図るためだ。商品はコロッケやカレー、缶詰、肉みそなどにとどまらず防災食まで幅広い。1次加工品を含めれば20種類ほどある。

 このうちムネ肉を削り節に加工した「地鶏の旨(うま)み」は思い入れのある逸品という。産学官連携により開発した技術を活かし、ムネ肉の皮をはいで乾燥させ燻製にして削り出した商品。営業部の堀内部長は「見た目はかつお節と同じだが珍しかったため注目を集めた」と話す。鶏の旨味と風味が凝縮された逸品で、商談につながるアイテムとして活躍している。

丸本の「阿波尾鶏」を使ったオリジナル商品
西日本くみあい飼料村越さん(奥右)、北村さん(奥左)と丸本のスタッフの打ち合わせの様子

丸本 第一工場の次長 嵐亮介さん

 この削り節の技術開発の研究に協力したのが、オンダン農協だった。モモ肉に比べて伸び悩んでいたムネ肉の需要拡大へ、徳島県立農林水産総合技術支援センターが新食材の製造技術開発に乗り出し、その確立と応用方法の提案へオンダン農協も大学とともに連携した。

 食肉処理を担当する第一工場は、削り節用の肉は脂をつけないように処理して製造する工場に出す。主力商品の1つであるだけに、売れ行きを含めて消費者の反応は従業員の励みにつながっている。

 工場では室温や品温の管理と記録、異物混入対策を徹底する。16年には徳島県の危害分析重要管理点(HACCP)認証を受けた。

 一貫体制によるメリットについて、第一工場で次長を務める嵐亮介さん(46)は「消費者ニーズを汲んでスピーディーに対応できるのが強み」と説明する。例えば、飼料用米を混ぜた飼料を食べさせた鶏の肉の味わいが従来と異なるなど新たな発見にも結びつくこともあった。さらにメーカー自らのブランドである「ナショナルブランド」の充実への期待も高める。

商品開発に輸出先開拓 新時代へ体制づくりも

 ただここ数年、コロナとの闘いが続く。外食需要の低迷などが響いた。冷凍在庫を抱えないように農場、処理場、営業の担当者が綿密に打ち合わせを重ね、羽数の調整をこまめにしてきた。しかし、既存の取引先ベースでみると、売上げは従来に比べて2、3割減った時期もあった。現在は徐々に回復傾向にあるとはいえ、巣ごもり需要や環境への配慮など消費者ニーズを踏まえた新商品の開発は打開策として欠かせない。

 もう1つの打開策として輸出にも着目する。国内では人口減少が進み、コロナ発生前のインバウンド(訪日外国人)需要も期待できないと見て海外での需要先を探る。21年度は香港やマカオを中心に約25tを輸出した。輸出量を毎年5tずつ増やすことを目標に、ベトナムに加え、加熱した商品をシンガポールに出すなど新たな販路開拓にも挑む。

 異常気象などによる世界の食料価格の上昇は、ロシアのウクライナ侵攻を背景に拍車がかかる。丸本社長は「飼料や資材などコスト高への対応や労働力確保が課題」と指摘、他の地鶏との区別化を図る上で「特産を活かした飼料など、JA西日本くみあい飼料とともに開発していく」ことも視野に入れる。あわせて、担い手育成、従業員が働きやすい環境整備や教育を進め生産基盤を安定させ、広く喜ばれる商品づくりを目指し走り続ける。

【丸本グループ本社】
株式会社丸本
徳島県海部郡海陽町大井字大谷41

【グループ】
(株)だんだんファーム(鶏の肥育)
オンダン農業協同組合(加工食品及び食肉製造)

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