JAうすきたまごファーム南郷農場
最新ICTを積極的に活用 鶏にも人にも快適な養鶏を実践

2022.08

JAうすきたまごファーム(株)南郷農場とジェイエイ北九州くみあい飼料(株)の皆さん

JAうすきたまごファーム株式会社南郷農場
住所:福岡県宗像市大穂730
従業員:15人
飼養羽数:約20万~24万羽
年間鶏卵出荷量:約6300万個

 福岡県宗像市の採卵鶏農場・JAうすきたまごファーム南郷農場は、ICT(情報通信技術)を導入したウインドウレス鶏舎で最大24万羽を飼養し、年間6300万個の鶏卵を出荷する。最先端のシステム活用による「鶏にも人にも快適な養鶏」の実践を通じ、安全安心で高品質な鶏卵の安定出荷を実現している。

風通しの良い鶏舎 鶏に、人に快適な環境

 異例の猛暑が日本列島を襲った6月下旬。むせ返るほど蒸し暑い屋外から鶏舎に入ると、そこはひんやりと涼しく、心地よい風が流れていた。光量を落とした鶏舎内で鶏たちは穏やかに餌をついばみ、通常の声量で会話ができるほど。糞尿のにおいも気にならない。農場長補佐の永岩成介さんは「最新の鶏舎システムを活用して、鶏にとって快適な環境を維持している」と説明する。
 鶏舎は計4棟。全て長辺約75mの3階建て構造で、各棟を2区画に仕切って8つの鶏群ごとに生育ステージや品種を区別して飼養管理する。風上に巨大な換気口を設け、風下に設置した複数の大型換気扇で排気し風の流れを作る。夏場は吸気側の換気口に水を垂らし、換気時の気化熱により低温の風を生み出して温度を下げている。

きめ細かな飼養管理 ICTを積極活用

 鶏舎内の環境制御は、ICTを活用して鶏舎内の制御盤や事務所のパソコンから一元管理する。室温は稼働させる換気扇の数を調整することで0.5℃刻みで管理。永岩さんは「鶏は繊細。温度がわずかに変化しただけでも、すぐに産卵数が増減する。鶏舎内を歩き回らずICTにより手元で管理できるので、労力の軽減と万全な管理を両立できる」と利点を挙げる。生産担当者の1人あたり管理羽数は約6万羽近くに及び、「データ管理が容易になったおかげで、鶏の異変や飼育上の異変にいち早く気づくことができる」と効果を実感している。

鶏の健康状態を確認する永岩農場長補佐

生育揃い産卵率も向上 ウルトラフレックス機

 養鶏にとって何よりも重要とされるのが給餌量と飲水量。これもICTにより、日々の給与量から温湿度、集卵数といった数値がリアルタイムで記録され一目瞭然だ。これらの数値をグラフ化するなどして比較しながら、鶏の生育や餌食いの状況を把握。例えば暑さで餌食いが悪い時は涼しい時間に餌を多く出すなど、給餌の量やタイミングを調整して安定した産卵につなげている。
 1羽1羽の鶏に過不足なく平等に餌を与えるために導入したのが「ウルトラフレックス機」。大型鶏舎では、給餌ラインの始点から終点までの行程で鶏に行きわたる餌の量に格差が生じる課題があるが、餌を高速で流すことで、ラインの終点付近の鶏にも始点付近の鶏と同等の量の餌が行きわたるようになる仕組みだ。同社生産部部長で農場長の坂本尚樹さんは「ウルトラフレックス機とICTの導入効果を合わせ、1羽ごとの生育や卵重、産卵数が揃い、400日齢を越えても安定して産卵率90%以上を維持している」と手応えをつかんでいる。

「鶏は繊細。最新システムで鶏にとって快適な環境を維持」

卵の状態を確認する坂本農場長(中)ら
餌を高速で鶏舎内に行きわたらせるウルトラフレックス機

万全な防疫・衛生対策 病原体を持ち込まない

衛生管理区域を明示するフェンス

 鳥インフルエンザの発生が全国で散見される中、業界の最重要課題となっているのが防疫対策だ。永岩さんは「最大の防疫対策は、病気の元となるウイルスなどを農場に持ち込まないことに尽きる」と、強固な〝水際対策〟に胸を張る。
 鶏舎には防鳥ネットを万全に配備し、野鳥や野生生物の侵入を最大限排除。農場に入る車両の消毒、農場内での専用着の着用、入場管理簿の記入といった基本事項は全て徹底している。また、広大な農場をフェンスで囲むことで農場(衛生管理区域)と外部を明確に区別するほか、農場外から管理事務所への出入口と、管理事務所から鶏舎への出入り口を分離することで、人がウイルスを持ち込まない動線を作っている。
 衛生対策は、鶏舎に入る前に長靴を消毒し、ミスト(霧)で衣服を除菌。鶏舎内の管理室で作業用の長靴に再び履き替え、もう一つのドアを開けるとようやく鶏の暮らす鶏舎に入ることができる。作業着は1日2回以上、着替える徹底ぶりだ。更に、死亡鶏が出た場合は、全ての棟の各フロアに設けた死亡鶏用シュートから最低限の移動距離で搬出できる構造となっている。
 こうした対策は、従業員全員が徹底しなければ「絵に描いた餅」でしかない。南郷農場では独自の衛生マニュアルを作成し、定期的なミーティングや日々の朝礼などを通じ、従業員の意識づくりに力を注いでいる。

集卵場をオート化 労力軽減・作業性向上を実現

 農場の鶏が日々産み落とす卵は、1日あたり約20万個。この膨大な卵が各棟で集卵され、自動コンベアーに乗り、続々と集卵場に到着する。集まった卵を選別する現場はあたかも〝鶏卵工場〟のように、清潔で整理整頓されている。
 集まった卵から格外品を見つける作業を担うのは〝目利き〟のパート従業員。目視で素早く確認するのは、汚れや割れの有無、大きさなど。無事〝合格〟した卵は1枚のトレーに30個ずつ乗せられ、5枚重ねで出荷用パレットに流れていく。
 ここで待ち構えるのが「荷積みロボット」だ。5枚重ねの出荷トレーが4つ(20枚分)集まると、巨大なアームが一挙につかんでパレットに積み上げる。トレー5枚で重さは約10㎏あるが、これまで人力で積んでいた。長く南郷農場に勤め、現在は集卵の責任者を務める白土直一さんは「昔の手積みは重労働で本当に大変だった。作業の機械化、効率化で比較にならないほど楽になった」と顔がほころぶ。
 ロボットの動作はミリ単位で調整でき、「人が運ぶよりも正確」という。白土さんは「オートメーション化による生産性向上だけでなく、人為的な卵の損傷も回避できる。もはやロボットなしは考えられない」と評価する。

PCで20分おきに農場のデータを確認する白土さん
従業員の作業負担を軽減した「荷積みロボット」

格外卵の低減に力 地道な努力にやりがい

 〝物価の優等生〟と呼ばれ、数十年にわたり小売価格が変わらず業界を圧迫し続ける情勢の中、南郷農場は産卵率の向上と格外卵を減らすことで経営維持に努めてきた。農場の立ち上げ当初、集卵段階の格外率は多い時で7%超えていたが、現在は3%程度まで低減した。永岩さんは「集卵時の破卵を減らそうと、従業員がひたすらコンベアーを手で拭くなどして汗を流した結果、数字に現れた時は達成感があった」と振り返る。
 関連業者の協力体制も心強い。ジェイエイ北九州くみあい飼料(株)は、与える餌の成分によって卵の殻を固くして破卵を減らすことを提案。ビタミンD3など強化した卵殻強化資材「エスク2」を飼料に配合し、格外卵の減少をサポートする。また、業界では数少ない「衝撃センサー」を導入し、集卵から出荷までの過程で衝撃が強く破卵が発生しやすい場所を徹底調査。集卵ラインの改善を後押ししている。同社養鶏課の矢野達紀係長は「顧客の収益向上を図るため、飼料以外でも経営をトータルサポートしている」と意欲的だ。
 坂本さんたちが今も忘れられないのは、農場の水が枯渇した〝一大事〟だ。当初は原因も分からず、給水車を呼び必死で水を確保し、ポンプの修復や井戸の増設など、従業員が総出で一心不乱に対応した。「ライフラインの重要性と生き物を守るという使命を痛感した」と、改めて身を引き締める永岩さん。坂本さんも「消費者に安心してもらえる卵を供給して関心を持ってもらい、若い人に担い手になってもらえる持続可能な業界づくりの一助となりたい」と前を向く。

格外品を見つける作業を担うのは〝目利き〟のパート従業員

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