「2022年のトピックス」
昆虫の飼料原料としての利用について

2022.12

 日本国内の食品廃棄物は年間で612万t(東京ドーム約5杯分)を超え、こうした食品廃棄物を餌にして昆虫を育て、飼料化する動きが加速しています。内閣府が主導する開発事業の一環としても、昆虫などの未利用の生物資源をフル活用する研究が既に始まっています。今回は、昆虫を飼料原料として利用する動向について紹介します。

養鶏研究室

昆虫の飼料利用に関する取り組み

 昆虫の飼料利用に向けた取り組みや研究は1980年代から始まりました。その後、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が『食用としての昆虫~食糧と飼料の安全保障に向けた展望~』という報告書を出して以降、世界的にその取り組みに注目が集まりました。

 昆虫はタンパク質を豊富に含み(表1)、農作物の端材や食品残渣を餌として成長することなどから、世界規模の食糧危機問題を解決する一方策として着目されています。飼料化が検討されている昆虫として、代表的なものにはアメリカミズアブ、イエバエ、コオロギ、ミールワーム等があります。

昆虫の飼料原料としての栄養価値

 昆虫を鶏に給与した試験は数多く報告されています。ケニアの研究チームによると、7〜49日齢のブロイラーに対して大豆油粕と魚粉の一部をアメリカミズアブ粉末に置き換えた飼料を給与したところ、5%の配合であれば、期間中の増体重に悪影響はなく、むしろ増体重は高まる傾向でした(表2)。また、アメリカの研究者によると、同様に51〜55週齢の採卵鶏に対して、アメリカミズアブ粉末を0%、8%、16%、もしくは24%含んだ飼料を給与したところ、16%までの配合であれば産卵成績に悪影響をおよぼさないことが示されました(表3)。

 その他の類似の研究も加味すると、総じて養鶏用飼料として5%程度の配合割合であれば、産卵成績や発育成績に悪影響は認められないと考えられます。

実用化に向けた課題

 一方で昆虫の飼育、製品化、輸送等にかかるコストが大きいことから、いまだ魚粉や大豆油粕等の代替になり得ず、年間を通じて安定的な流通を実現し、現実的な供給コストに抑えることが課題といえます。そのためには、社会認識の変容による昆虫飼料のニーズ拡大や生産技術の革新等が必須です。更には昆虫を飼料化する際の全ての工程にかかるエネルギーコストを考慮しても、魚粉や大豆油粕等、既存の飼料原料と比較して環境負荷が同等以下に抑えられるか否か、という踏み込んだ検証も必要です。いずれにしても、私たちが地球と地球上の生物と永く共生するためには、これらのさまざまな選択肢に対して常にニュートラルに向き合い、判断することが求められます。

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