夏場対策のポイント
養鶏の夏場飼料を考える~暑熱対策の落とし穴~

2024.04

 過ごしやすい春は気付けば夏となり、鶏にとって過酷な時期がやってきます。近年、地球温暖化により一層過酷な暑さとなった夏場に向け、成績を維持するための様々な対策が畜種ごとに存在します。養鶏における対策の一つが、夏場向けの飼料設計による対策です。一般的に養鶏では、飼料中の粗タンパク質(CP)水準を下げ、代謝エネルギー(ME)水準を上げることで夏場の成績維持に有効であるとされていますが、それは本当なのでしょうか?

養鶏研究室

なぜ夏場の産卵成績は下がるのか

 暑熱環境下の鶏が抱えている問題について理解することで、ご自分の鶏群における対策の必要性が判断しやすくなります。

 重要となるのは、体の構造上、鶏は熱を逃がしにくいという点です。例えば、ヒトには汗をかいて熱を逃がすための汗腺が存在します。しかし、鶏には汗腺の働きをする機構が存在しないため、パンティング(激しい呼吸)による熱放散で体温を調整する外ありません。環境温度が16℃から26℃に上がることで鶏の呼吸数は4倍に増加すると言われており、それに伴い体内のエネルギー消費も増加します。この場合、鶏は限られたエネルギーからさらに産卵に必要なエネルギー量を確保する必要があるため、暑熱環境下では産卵行動自体が、鶏にとって負荷のかかる行動となります。

夏場飼料の低CP高ME化理論

 前述のような鶏の性質を踏まえ、生産性を維持するための夏場対策における要点は、鶏の体内で発生する熱量を減少させることにあります。

 今までに、食事をしたら体が熱くなったという経験はありませんか?これは、摂取した栄養素が体内でエネルギーだけでなく、熱にも変換(生産)されることに起因します。生産される熱量は栄養素ごとに異なり、タンパク質は特に高いことが知られています。鶏においては、脂肪を1g摂取した場合に体内で生産される熱量は1.05kcalであるのに対し、同様の条件でタンパク質を摂取すると生産される熱量は8.72kcalとおよそ8倍です(表1)。そのため、飼料中から熱生産量の高いタンパク質含量を減らし(低CP化)、熱生産量の低い脂肪を用いてエネルギーを充足(高ME化)させることで、飼料による鶏体内の熱生産量を抑えつつ、効率的にエネルギーを供給することが可能であると考えられてきました。また、低CP化を行わず、飼料エネルギーに占める脂肪含量を高める方法でも熱生産量が2%程減少する結果が報告されています(表2)。

実際のデータから考える、夏場飼料の低CP高ME化

 では、実際に飼料の低CP高ME化は、夏場対策としてどれほどの効果があるのでしょうか。当研究所では、CP18%・ME2850kcal/kgの飼料を対照区とし、試験区ではCP水準はCP14~20%の範囲で2%刻みに、MEは対照区より100kcal/kg高めた2950kcal/kgで設定し、試験を行いました(表3)。試験には18週齢の若齢鶏(ジュリア)を使用し、32週齢までの毎週の産卵成績を比較することで夏場対策としての効果を確認しました(図1)。また、試験中に最高気温の週平均が30℃を超えた25~31週までを、特に影響のある暑熱期としました(図2)。

 結果より、対照区と比較してCP14%区・16%区は暑熱期に産卵成績の悪化が見られました(図2)。特にCP14%区では通期の産卵成績が93.3%と、対照区よりも3%以上低い結果が出ています。10万羽規模の養鶏場であれば、1日あたりに出荷できる卵が3000個減少することになるので、非常に大きな損害です。実際の理論とは異なり、暑熱期における極端な低CP化は鶏に悪影響を与えてしまうことが分かります。また、これは暑熱に関わらず、単純に若齢鶏に必要なたんぱく量が満たせていなかったことも原因と考えられます。

 対して高CP化を行ったCP20%区では、飼料摂取量がCP14%区に次いで低く推移したほか(図3)、暑熱期の産卵率を改善する効果は認められませんでした(図2)。このことから、暑熱環境下での高CP飼料は鶏にとって特段良い影響が無いことがわかります。

 対照区とCP18%区では、対照区において通期の産卵率が優れたものの(図1)、暑熱期における産卵率は高ME化を行ったCP18%区の方が優れる結果となりました(図2)。数値としては0.4%ほどになりますが、図2を確認すると対照区よりも安定して高い産卵率を維持しています。前項で話したように、飼料中の脂肪含量を増やしたことで鶏の体内で発生する熱を抑え、産卵に必要なエネルギーを供給できた可能性があります。

まとめ

 以上のことから、夏場の飼料対策は…

  1. 低CP化は得策ではない。
  2. 高ME化により暑熱下での代謝熱の発生を抑えるのは効果的な可能性がある。

 ということがわかりました。(ただし、例えば35℃を超えるような極端な酷暑期については、これらの理論が通用するかさらなる検証が必要です。)

 今年の夏は昨年よりも平均気温が高くなる可能性が高いことが気象庁より予想されています。飼料による夏場対策は必要か、鶏の様子を見ながらぜひ検討してみてください。

おまけ 飼料で出来る夏場対策

Q. 夏場に卵殻が弱くなってしまった…。

A. 重曹の添加(0.1~0.3%)が効果的です。パンティングによる血液pHの上昇を引き戻してくれるなど、鶏体内の恒常性を維持する点で有効です。また、全農の開発した夏場対策混合飼料「エスク2」という資材もありますので、お近くのくみあい飼料担当者までお気軽にお問合せください。

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