一生懸命
F1牛の価値向上へ県を挙げて挑戦

2023.02

とちぎ霧降高原牛

 栃木県の交雑牛(F1)のオリジナルブランド「とちぎ霧降高原牛」。指定農家が安全・安心の飼料と厳しい飼養管理基準をもとに生産し、全国の枝肉共励会で最優秀賞を連続して獲得。実需者からも高い評価を得ている。中でも足利市の株式会社長谷川農場は約700頭を肥育するほか、地元飲食店への流通や加工品開発などにも注力し、ブランド価値向上に貢献している。

〝霧が降りた〟まろやかさ指定農家が協力

 「とちぎ霧降高原牛」は、JA全農とちぎが県を代表する新たなF1ブランド牛をつくろうと立ち上げた。〝質と価格〟のバランスに優れた県オリジナルのブランドを確立することを目標とした取り組みだ。名称は、観光客に親しまれている日光連山の「霧降高原」からとり、農家、JA、バイヤーと一体となって指定基準などを定め、2001年から販売をスタートした。

 消費者が安心して食べられるように、全農とちぎが指定する生産農家が飼料にこだわって清潔な環境下で飼養する体制をとった。自家産をはじめとした地元で取れる良質な稲わらと、遺伝子組み換えトウモロコシを使用していない専用配合飼料「マーブルシリーズ」を給与することがルールになっている。

 JAグループ栃木交雑種販促委員会の手塚正会長は「安全・安心の飼料を給餌し、JAを通して出荷したものだけが『とちぎ霧降高原牛』に認定される」と強調。そのうえで、〝ブランド牛〟の名を冠するのにふさわしい、おいしい牛肉をつくる秘訣として、「小さい頃から手をかけて、愛情をたっぷり注いで育てること。そうすることで、『とちぎ霧降高原牛』の肉質として高く評価される、まさに霧が降りたような、まろやかで風味のある〝おいしい牛〟をつくることができる」と話す。

 立ち上げ当初、約30戸の農家が「とちぎ霧降高原牛」のブランド研究会に参加した。参加農家は、JA東日本くみあい飼料㈱を通して自身の肥育方法や牛の肉質の数値を公開し、各農家の経営の参考にした。これまで各農家が秘密にしていた肥育方法も公開し、研究会全体で徹底的に肉質向上を目指した。取り組みが奏功し、10、13年度全国肉用牛枝肉共励会で最優秀賞受賞、第10~20回全農肉牛枝肉共励会で11年連続最優秀賞を受賞するなど高い評価を得るまでになった。

 同委員会は農家が売上の0.5%を拠出し、販売促進費として活用する。新型コロナの感染が広まるまでは、農家やその家族が店頭に立ち、自分たちが生産した牛肉をアピールしてきた。手塚会長は「農家が安心をアピールする取り組みが実を結んだ。大手量販店も美味しい肉だと推薦してくれ、消費者からも大きな反響があった」と話す。

「愛情をたっぷり注いで育てる」と話す
JAグループ栃木交雑種販促委員会の手塚会長

霧が降りたまろやかさが特長の「とちぎ霧降高原牛」

栃木県足利市 長谷川農場

ブランド向上をけん引

 栃木県足利市の長谷川農場はブランド立ち上げ当初から「とちぎ霧降高原牛」を肥育し、現在は約700頭まで規模を拡大している。

 以前は300頭規模でホルスタイン去勢の肥育をしていた。規模拡大で経営の安定を図っていたが、BSE(牛海綿状脳症)の発生で経営が急激に悪化。長谷川良光社長は「倒産も覚悟するような状況だった」と当時を振り返る。起死回生の一手として、和牛に比べて利幅が少ないものの、経営コストが比較的かからないF1を検討。経営規模もホルスタインに比べて最適だった。当時、県産のF1が注目を集めていたこともあり、「とちぎ霧降高原牛」のブランド研究会に参加することを決めた。

「地元で食べてもらうには良さを一番知っている生産者のアピールが大切」

地場産の稲わらを食べる「とちぎ霧降高原牛」

 長谷川社長は「とちぎ霧降高原牛」について「味に自信があるのは当然だが、定時定量定品質も良さの1つ」と話す。指定農家が同じ飼料で、ほとんど同じ肥育期間飼養することが定時定量定品質を実現。実際、「とちぎ霧降高原牛」の指定農家は枝肉重量(577キロ)、4等級以上率(29.6%)、3等級以上率(77.7%)が全国や県内平均を全て上回っている。長谷川農場も4等級以上が30%、3等級以上は90%と良質な肉質の牛を肥育することに成功。この成果に長谷川社長は「研究会に参加した指定農家たちが知識と技術を持ち寄り、互いに切磋琢磨した結果だ」と胸を張る。

 「とちぎ霧降高原牛」の出荷月齢は約28カ月齢。一般的な肥育期間と比べ、2カ月ほど長い。近年、黒毛和牛は経営の効率化を目的に肥育期間を短くする傾向にあるが、肉質の良好さや枝肉の重量が豊富であること、風味の良さから「とちぎ霧降高原牛」の肥育期間の長さは強みとなっている。

 「とちぎ霧降高原牛」は、近年世界的に注目が集まっている牛のゲップ対策にも取り組んでいる。指定農家全戸が使う専用配合飼料の「マーブルシリーズ」は、ゲップに含まれるメタンの発生抑制に効果があるとされる〝カシューナッツ殻液〟が配合されている。長谷川社長は「環境に配慮した畜産経営を実践していきたい」と話す。

 また、地元産の飼料用米を餌に配合することで、近年求められている脂身のオレイン酸向上にも注力。水田の有効活用による食料自給率の向上に加え、飼料原料の地産地消でも環境負荷の軽減に貢献している。

専用配合飼料「マーブルシリーズ」を給餌
株式会社長谷川農場代表取締役 長谷川良光さん

園芸、直販部門強化 循環型農業を実践

JA全農とちぎの担当者との打ち合わせの様子

 長谷川農場では水稲を25ha栽培し、自家産の稲わらを「とちぎ霧降高原牛」の飼料として使用している。また、堆肥を有効活用するため、農産園芸部門を強化した。同部門では、堆肥を多く使用するアスパラガス(栽培面積1.2ha)とタマネギ(同1.3ha)を栽培している。水稲や園芸に取り組むことで、稲わらや畜産部門でつくられた堆肥を効果的に使用している。長谷川社長は「循環型農業を意識したわけではなく、経営の一環と思ってやっていた」と話す。

 地元での肥育牛の流通やインターネット通販事業にも力を入れている。市内外18のレストランで自社のF1牛を提供。自社販売だからこそ、飲食店の需要に応じて必要な量の肉を提供できている。お客からは「旨みのある脂と赤身のバランスが良く、これなら量を食べることができる」と評価を得ている。

 インターネット通販事業では自社で肥育したF1牛のセットのほか、加工品としてハンバーグ、東京の薬膳中華店シェフ監修の肉まんなどを販売。インターネット通販を含む全ての肉の販売事業の売上げは22年度に5000万円を超える見込みで、長谷川社長は「今後の経営の柱の1つにしたい」と夢を語る。

株式会社長谷川農場専務 長谷川大地さん
農産園芸部門で栽培しているタマネギ
若手従業員がきびきびと働く長谷川農場
株式会社長谷川農場

住所:栃木県足利市羽刈町1319-1

従事者:8人 飼養頭数:F1約700頭

創業:1956年(2015年に法人化)

農地面積:水稲25ha、アスパラガス1.2ha、タマネギ1.3ha

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