酪農家(岩手県八幡平市)×農事組合法人×岩手山麓ディリーサポート×JA全農いわて岩手山麓コールドセンター×JA全農いわて×JA全農北日本くみあい飼料(株)
TMR製造から生乳出荷まで酪農家支え、ゆとりある酪農へ

2023.04

岩手県八幡平市では、餌となるTMRの製造から生乳の集出荷まで、酪農家を支える体制が確立され、ゆとりある酪農が実現できている。

地域の酪農家が立ち上げた農事組合法人岩手山麓ディリーサポートが、自給した粗飼料を使った発酵TMRを製造し、安定的に供給。JA全農いわて岩手山麓コールドセンターがHACCPの考え方に基づいた検査と温度管理を行って、高品質な生乳を全国に届けている。

岩手山麓ディリーサポート 300haで粗飼料100%自給

TMRセンター
必要な量だけ自動で粗飼料を集める
自走式混合飼料ミキサー
1袋平均650kgで出荷
女性職員も活躍!

 岩手山麓ディリーサポートは、岩手山のふもとに広がる恵まれた環境を活かしたTMRの製造と供給、コントラクター事業を経営の柱に据え、今年で設立から18年目を迎える。2017年に3代目の代表となった松本千秀さんは設立時からのメンバーで、同市で搾乳牛65頭(全頭数約120頭)のフレンドリー牧場を家族4人で経営。2007年には優れた経営が評価され農林水産大臣賞を受賞するなど、地域酪農をけん引してきた。購入飼料や資材費、光熱費の高騰などで畜産農家を取り巻く状況が厳しさを増す中、松本さんは「少しでも価格を抑え、高品質なTMRを供給することが組合の使命です」と話す。

岩手山麓ディリーサポート
代表の松本さん
総務・経理
武田マリ子さん
コストを抑えた土壁のバンカーサイロ
収穫した飼料作物は15基のバンカーサイロでサイレージ発酵された後、
リンゴ粕や醤油粕などの食品残さや配合飼料が混合され、発酵TMRになる

 ディリーサポートの発酵TMRは設立当時から粗飼料のほぼ100%を自給飼料でまかなう。今後はデントコーンの耕作面積を更に増やし、濃厚飼料の自給割合を高めていく方針だ。現在の草地面積は受託分を合わせて200ha、デントコーンは100ha。松本さんは「デントコーンの耕作面積をあと1割ほど増やす計画です。単収を上げ、価格を抑えつつ品質を向上させていきます」と話す。土壌を改良し、雑草防除や耕作地の効率化を進めることを重視する。

 利用する生産者は、同市内を中心に現在14戸。2022年のTMR年間製造量は5300t、ロールベールは年間2000~2500個を供給する。泌乳期用2種類、乾乳期用1種類を製造し、搾乳牛向けの平均価格は運賃税込みで1t約4万円。製造にあたっては設立時からJA全農いわてやJA全農北日本くみあい飼料㈱がメニューづくりなどの助言をしている。

農事組合法人岩手山麓ディリーサポート

岩手県八幡平市平笠24地割709-2 従業員数:TMRセンター16人、自社牧場4人
管理面積:300ha 年間製造量:TMR5300t、ロールベール2000〜2500個

若者を積極的に雇用 自社牧場もスタート

親川部門長(右)と昨年1月に就職した伊藤裕志さん(23・中)、三浦七実さん(21)ら牛群飼養管理部門メンバー

 ディリーサポートは若い従業員が多く活躍しており、組合員である酪農家の作業負担がないのも特徴の一つだ。ただ当初は季節雇用の非正規従業員に頼った不安定な雇用形態だったため、組合員の出役が常態化していた。松本代表はこのような状況を変えようと、10年ほど前から正社員を増やし、若い働き手を積極的に雇用してきた。

 設立時から働くセンター長の佐々木良治さんは県内の高校でリクルート活動をする一方、組織の福利厚生や待遇面を徐々に改善し、〝ブラック〟だと思われがちなイメージを変えていった。その結果、求人に困らない状況が生まれ、今では多くの若者が集まった。佐々木さんは「今春も高卒の新入社員を1人迎え、従業員は2人のパートを含めて16人になりました。平均年齢は30歳で、9割が非農家です」と胸を張る。

TMRセンターの佐々木センター長
牛群飼養管理部吉田華奈さん
ショベルカーで粗飼料を運ぶ三浦さん
昨年離農した酪農家から受け継ぎ、立ち上げた自社牧場

 「若い人が働く場には、若い人が集まってくる」と、佐々木さんは断言する。職場は活気があふれ、労働の質も変化してきたという。「最初は畜産に興味がなくても、働く中で魅力に気づかせる自信があります。実際、入社後の離職率は低く、社員は生産者を支えることにやり甲斐を感じて働いています」と説明する。

 ディリーサポートは昨年、離農する酪農家の牛舎を活用し、牛群飼養管理部門(自社牧場)を新たに設けた。自社の飼料でコストを抑えつつ、将来的には6次産業化を考えているという。部門長として昨年入社した親川泰典さんは「40頭規模の牛舎ですが、今の搾乳頭数は29頭。乳質向上のために牛群を見直している最中です。今後は1頭あたりの乳量を上げ、自家産で優良牛を増やしていきたいと考えています」と話し、将来的な規模拡大を目指す。

 更に、松本さんは離農が相次いでいる現状を変えていきたいと語る。牧場を始めてから新たに4人の社員を雇用し、ディリーサポートを酪農後継者を育成する場にしようと考えている。「生乳生産に取り組んだことで事業の幅が広がった。将来、独立して新規就農を希望する人が出てきた時は最大限応援していきたい」と松本さん。大変な状況だからこそ若者たちと夢を語り、酪農の未来のため、挑戦を続けていく。

厳密な検査で、 乳業メーカーの信頼獲得

JA全農いわて岩手山麓コールドセンター

 ディリーサポートや組合員の牧場の生乳を集乳し、全国の乳業工場に出荷するのがJA全農いわて岩手山麓コールドセンターだ。県央5市町から集乳する量は1日約130t。約7割が首都圏や東海・北陸など県外へ出荷される。コールドセンターは集乳出荷業務のほか、日々の検査で乳業メーカーの信頼を獲得し、生産者と消費者をつなぐ重要な拠点になっている。センター長の遠藤年治さんは「私たちの検査結果を見て、生産者は出荷可否の判断をします。だからこそミスが許されず、正確な数値で信頼を重ねることが重要です」と話す。酪農家や乳業メーカーからの信頼を維持するのは簡単なことではないが、多くの関係者がそれぞれの役割を果たして生産者を支えている。

HACCPに基づいた検査を実施したうえで、全国へ出荷
JA全農いわて岩手山麓コールドセンターの遠藤センター長

JA全農いわて岩手山麓コールドセンター

岩手県八幡平市平笠第24地割1番77号
従業員数:9人 業務内容:生乳の集乳、出荷、品質検査
集乳量:130t

COMMENT

 昨年6月から担当となった全農北日本くみあい飼料岩手営業所の遠藤隆太郎さんは「私自身も北海道の酪農家だったので、飼料高騰などの大変さはよく分かります。生産者の皆さんに寄り添いながらサポートしていきたいです」と話す。

全農北日本くみあい飼料岩手営業所の遠藤さん(右)と指導役の鎌田三義さん

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