栃木県立宇都宮白楊高等学校

2023.04

JR宇都宮駅から車を走らせること約30分。街の喧騒はすっかり消え、関東平野の広大な農地に囲まれた高根沢農場が目の前に現れた。高根沢農場は、宇都宮白楊高校の実習の場。牛舎をはじめいたるところで、生徒たちの明るい声が響いている。朗らかな生徒たちに世話されている牛も、健康でどことなく楽しそうだ。
創立から130年弱にわたり、多くの農業関係者らを輩出してきた、宇都宮白楊高校の魅力を詳しくお伝えする。

チモシーの栽培に取り組む 粗飼料自給率は100%

 宇都宮白楊高校の牛舎では、現在、30頭ほどの牛たちが暮らしている。日頃、彼らが食べている粗飼料は、イタリアンライグラスとチモシー。チモシーは、寒冷地以外での栽培は難しいとされているが、宇都宮白楊高校では、約3年前にチモシーの栽培を開始。以降、1haの圃場で栽培している。また、牛たちに与える稲わらは、校内の水田で収穫したもの。「粗飼料に関しては、校内で100%自給できています」と、農業経営科長の冨山義和先生は話す。粗飼料を自給するだけでなく、牛の糞尿を完全堆肥にして圃場に投入することで、環境にやさしい循環型農業も実践している。
 新たな試みにも積極的だ。県内の農業高校6校と日本製紙と連携し、国産木材を使用した「クラフトパルプ」を実験的に牛に給与している。このクラフトパルプは同社が開発し国内で製造したもので、高品質なセルロースが主要成分。これにもみ殻や濃厚飼料を混ぜたものを一部の牛に与えつつ、新たな飼料としての可能性を探る。国産原料飼料の割合を高め、「地域の畜産にも貢献したい」と意気込む。

校名
栃木県立宇都宮白楊高等学校
所在地
栃木県宇都宮市元今泉8丁目2番1号
生徒数
856名(2022年4月時点)
設立
明治28年(1895年)4月1日
学科
農業科:農業経営科、生物工学科、食品科学科、農業工学科	
工業科:情報技術科
商業科:流通経済科
家庭科:服飾デザイン科
和牛甲子園出場歴
第1回〜6回まで、全て出場

特徴

 JR宇都宮駅から徒歩15分ほどの場所にあるキャンパスには、教室や各種実験室のほか、果樹園、温室、馬場など多彩な施設が設けられている。高根沢農場は、4haの牧草地と県内の農高で最大の3.5haの水田があり、広大で平坦な関東平野で各種実習を実施しやすいのが特徴。毎年5月、全学科の1年生は、高根沢農場の水田で田植えを体験する。

動物と接する仕事

あちこちで笑顔の花が咲く牛たちとの屋外実習

みんなが作ってくれた洋服(カーフジャケット)がお気に入り!

 宇都宮白楊高校の1年生は、週1回、高根沢農場で実習を受けている。取材時の主な実習内容は、牛のブラッシング。対象となったのは、穏やかな性格の「つぼみ」と、あまり人馴れしていない「北斗七星(ケンシロウ)」だ。
 たくさんの生徒に囲まれて興奮したのか、強く綱を引くなど思いもよらぬ行動を取るケンシロウ。しかし、生徒たちは「もう10回以上、実習でお世話しているから牛は怖くない」と、笑顔を見せる。
 冨山先生によると、本校に通う生徒の多くが動物好き。卒業後の生徒の進路は畜産の分野に限らず、トリマーや動物園の飼育員など、動物と接する仕事を目指す生徒も多いそう。それぞれの夢に合わせた指導を行っているという。

飼育のこだわり

「牛に優しく」のモットー通り、環境も接し方も優しい
快適な環境でくつろぐ牛

 「牛に優しく」を肥育上のモットーとしており、牛の体調や牛舎の環境を改善するためのアイデアは柔軟に取り入れている。約3年前に牛舎に設置した「ハエトラップ」は、生徒たちが発案した。ハエが好みそうな液体を入れたペットボトル製のトラップを吊るし、ハエを捕獲する。ハエが減り、牛のストレスが軽減されている。

藤野 綾音(ふじのあやね)さん

農地が充実しているのも、この学校の魅力です。将来は果樹園で働きたいです

増山 木乃実(ましやまこのみ)さん

動植物と触れ合える点に魅力を感じ、宇都宮白楊高校に入りました

星 泉里(ほしせんり)君

農業クラブの分会長として、他校との意見交換会などに参加しています。
今年1月、カンボジアの生徒と意見を交わす機会がありました

先輩“牛児”の姿に感動

「和牛甲子園」が目標 クラフトパルプを研究

牛の名前は生徒が決めています
冨山先生(右)と菊地修平先生

 畜産分会を専攻した生徒にとってのビッグイベントが、全国の〝牛児〟が日頃の飼養管理の成果などを競い合う「和牛甲子園」だ。今年1月の第6回和牛甲子園を見た女子生徒は、「先輩牛児が情熱をぶつけ合う姿に感動した」と振り返る。また、出品された枝肉を食べたという生徒は「脂がしっかりとのっていてジューシー。すごくおいしかった」と笑顔を見せた。
 入学以降、畜産だけでなく果樹や野菜の栽培を学び、稲の手植えなども体験したという2年生。幅広い経験を経て、3年生で畜産分会の専攻を決めた彼らの目には、確かな意志が宿る。次回の和牛甲子園では、先輩たちが取り組んできた自給粗飼料を中心とした飼養管理や、クラフトパルプを使った研究を更に進化させ、目覚ましい健闘を見せてくれるはずだ

セールスポイント

 茎が細く、葉もやわらかいチモシーは、牛が好んで食べる。高根沢農場にはロールベーラーやオートラップマシーンもあるため、乳酸発酵させた牧草をラップして長期保存することも可能。「いつでも牛に良質な牧草を与えられるようになったのをきっかけに、体調を崩す牛が減りました。粗飼料をたくさん食べるようになりました」(冨山先生)。

学校が保有するオートラップマシーン
農場で収穫された牧草
大槻 來人(おおつきらいと)君

牛たちを大事に育てていきたいです

渡邊 菜々美(わたなべななみ)さん

和牛甲子園でいい結果を得られるよう、精一杯頑張ります

この記事をシェアする

  • LINEで送る
  • Facebookでシェアする

おすすめ関連記事

他の記事を探す

蓄種別
テーマ別