第6回和牛甲子園 過去最多40校の”牛児”集結

2023.04

 全国の高校〝牛児〟が集い、日頃の活動と飼養技術を競う第6回和牛甲子園が1月19・20日の両日、東京都内で開催された。JA全農の主催(事務局・畜産総合対策部)で、過去最多となる23道府県40校が出場。高校〝牛児〟たちが研究の成果や枝肉の優良性を披露し、仲間との交流を深めた。

 3年ぶりの実開催とオンラインの併催となった本大会。品川グランドホール(東京・品川)に26校の高校〝牛児〟と関係者が集うとともに、14校のオンライン参加による全40校の静かな熱気に包まれる中、幕を開けた。

 開会式では、前回大会の総合部門最優秀賞校、愛知県立渥美農業高校が優勝旗を返還。富山県立中央農業高校の中田歩夢さんら4人が「〝牛児〟マンシップにのっとり、牛とともに青春を謳歌(おうか)することを誓います」と宣誓した。

 JA全農の齊藤良樹常務理事は「同世代の仲間たちの創意工夫溢れる取り組みを学ぶことは、必ず成長につながる。本大会の活動を通して、牛飼いの楽しさを分かち合える仲間をつくり、将来、担い手のひとりとして活躍してほしい」と〝牛児〟らに熱いエールを送った。

JA全農の齊藤良樹常務理事

総合優勝・大垣養老高校 5年間の集大成飼料給与の課題をクリア

 本大会は、和牛の飼養管理における取り組みや創意工夫、チャレンジなどを発表する「取組評価部門」(体験発表会)と、飼養した和牛の枝肉の品質を競う「枝肉評価部門」をそれぞれ50点満点で審査し、両部門の合計得点で「総合評価部門」の最優秀賞が決定する。

 総合評価部門の最優秀賞には、岐阜県立大垣養老高校が輝いた。5回目の出場で初の総合優勝の栄冠に輝いた。

 枝肉は雌と去勢の2頭を出品。このうち、去勢の「優李(ゆうり)」(父=花清光、母の父=花福桜)は枝肉重量582kg、ロース芯面積87cm2、BMS No.12、オレイン酸など一価不飽和脂肪酸(MUFA)含量の予測値は60.4%と高く評価され、優秀賞を受賞した。取り組み発表では、同校や岐阜県内で維持されてきた伝統系統「なぎさ系」に注目し、今大会を見越して飼養管理を改善してきた成果をアピールした。増体効率を維持しつつ、病気の発生を抑えられるように、飼料給与の課題を一つひとつクリアしてきた。

 3年の栗田煌斗さんは「枝肉評価部門で優秀賞を取れただけでもうれしいのに、総合評価部門で最優秀賞を受賞できて驚いた」と話し、2年生の鈴木聡さんは「これまでの出品牛のデータをもとに研究を更に発展させ、第7回の和牛甲子園でも入賞を目指したい。和牛肥育は生き物を扱うので食のありがたみを感じるようになった。将来は消費者のニーズに応えながら、『飛騨牛』の伝統と特色を活かした肥育経営を行うのが目標」と抱負を語った。辻野清太郎教諭は「生徒が主体的に動き、牛の体調を細かく見て、餌の調整などをやり続けてくれた。この大会を狙って作ってきた牛だ」と話した。

セリで最高値を記録
総合評価部門最優秀賞を受賞した大垣養老高校の生徒と指導教員

取組評価部門 市来農芸高校(鹿児島)光合成細菌を活用

棒指しで分かりやすく発表
市来農芸高校の発表の様子

 初日の取組評価部門の最優秀賞は鹿児島県立市来農芸高校が選ばれた。「次代の和牛づくりへの挑戦」をテーマに、おからやきな粉を給与してサシと赤身が調和した肉質の改善に取り組んだほか、光合成細菌を活用して牛床の床替えにかかるおがくず代を1/3に削減することに成功した。2年ぶりに最優秀賞に返り咲いた同校の生徒は「昨年の悔しさをバネに、今年こそはと仲間とともに取り組んできた。研究の成果を地域の畜産農家に示し、地域の畜産業にも貢献したい」と未来を見据えた。

 審査講評では「先輩の代から継続してきた光合成細菌の研究を、ついにコスト削減につなげた。今後もこの研究を更に発展させてほしい」と期待の声が寄せられた。

牛床のおがくず代1/3に削減
ガッツポーズを決める市来農芸高校の生徒ら

 優秀賞は、地域資源のジャガイモを活用した「ジャガイモ粕サイレージ」の製造と安定供給に取り組んだ倶知安農業高校(北海道)、赤ぬかを配合した飼料で短期肥育を試み、市場のニーズに合わせた牛肉生産を目指した西条農業高校(広島県)が受賞した。優良賞は、地域資源である飼料用米と酒粕に着目し、オレイン酸値の向上に取り組んだ府立農芸高校(京都府)、栃木県内の農業高校6校と共同プロジェクトを立ち上げ、クラフトパルプの飼料の活用を進めた栃木農業高校(栃木県)、発情抑制による肥育成績向上を目標に研究を行った中央農業高校(神奈川県)が選ばれた。また、〝牛児〟らが選ぶ高校牛児特別賞は渥美農業高校(愛知県)、審査員特別賞は鹿屋農業高校(鹿児島県)に贈られた。

取り組み評価部門 受賞校一覧

最優秀賞

「次代の和牛づくりへの挑戦」
鹿児島県立市来農芸高等学校

優秀賞

「ようてい和牛プロジェクト ~地域と歩む、後世に残り続ける畜産業~」
北海道倶知安農業高等学校

「短期肥育の鍵は赤ぬかペレット!?」
広島県立西条農業高等学校

優良賞

「持続可能な和牛生産を目指して ~地域資源と自給飼料のフル活用~」
栃木県立栃木農業高等学校

「家畜と環境に配慮した飼養管理 ~発情抑制による肥育成績向上に向けて~」
神奈川県立中央農業高等学校

「和牛でつなぐ地域の輪 ~チーム京都の挑戦~」
京都府立農芸高等学校

高校牛児賞

「いま始まる“牛のため”を考え続けた私達の最終章 ~みかわ牛の知名度向上を目指して~」
愛知県立渥美農業高等学校

審査委員特別賞

「和牛新時代!和牛の魅力をさらなる高みへ ~地域の力 高っけーコストを竹で解決~」
鹿児島県立鹿屋農業高等学校

レジェンド講話「進路関係」で後輩へアドバイス

高校牛児レジェンドとして登壇した加藤大地さん(スクリーン左)、林実佐子さん(壇上左)、田中里佳さん(壇上右)

 特別企画として、第1回・2回大会で総合評価部門最優秀賞を受賞した飛騨高山高校の卒業生3名が〝高校牛児レジェンド〟として登壇し、講話を行った。加藤大地さん(北海道)は、北海道の農場で新規就農の研修中のためWebでの参加。会場に駆けつけたJA飛騨ミートで活躍中の林実佐子さん(岐阜県)、農業高校での指導者を目指し酪農学園大学へ進学した田中里佳さん(北海道)の3人には、高校〝牛児〟たちからたくさんの質問が寄せられ、会場を盛り上げた。

枝肉評価部門 矢板高校(栃木)バランス良い大型牛

矢板高校の枝肉断面
矢板高校の生徒と指導教員

 2日目は朝から東京都中央卸売市場食肉市場で、枝肉勉強会と枝肉共励会が行われた。新型コロナウイルス感染症対策のため、出品された各校の枝肉を教員だけが見学。審査委員は枝肉の断面にライトを当て、枝肉の質などを解説した。

 東京食肉市場で開かれた枝肉共励会には生徒も参加。自分たちが育てた和牛がセリにかけられると生徒たちは祈るような表情でモニターを見守ったり、高値がつくと手をたたいて喜んだりしていた。

 枝肉評価部門の最優秀賞は栃木県立矢板高校が受賞。出品牛は枝肉重量632kgの去勢牛で、ロース芯面積が93cm2、バラの厚さ11.3cm、BMS No.12を記録した。審査講評では「一般の共励会でも入賞に値する。大型牛でありながら前躯、中躯、後躯のバランスが取れている」と高く評価された。共励会では1kg単価3402円(税別)の高値で競り落とされた。

 率先して毎日の飼養管理を担ってきた3年の針生雄央さんは「和牛甲子園で学んだことを後輩たちに引き継いでいきたい」と笑顔で話した。

 農畜産業振興機構の庄司卓也副理事長は「共励会では4等級、5等級に格付けされた肥育牛が多く、高い技術に感心した。また、コスト削減やブランディング等による販売促進など課題に真摯に取り組む姿勢に感銘を受けた」と生徒のこれまでの取り組みを評価した。

特別授業 人気店の女性社長が講演

特別講師として登壇したサトウ食品の佐藤理香代表(右)

 2日目は特別授業も開かれた。講師にはサトウ食品の佐藤理香社長を招き、「私の進路選択と食肉業界」をテーマに講演。佐藤社長はメンチカツで行列の絶えないショップや映画でも取り上げられた有名ステーキ店の二代目社長。「おいしさの追求は牛づくりから始まっている」と話し、農家に対して牛肉の味をフィードバックすることでより良い商品の開発を目指していることを明かした。

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