ET研便り
夏場の受精卵移植と暑熱対策用混合飼料

2023.04

 今号より、全農ET研究所で定期連載させていただくことになりました。受精卵業界を取り巻く状況、技術情報などを提供する場とさせていただく予定です。今回は、ET研の概要と、夏場の受精卵移植の活用等についてご紹介します。

ET研究所について

 全農ET研究所は北海道十勝地方の上士幌町に本場を構え、岩手県、茨城県及び福岡県に分場を置いています。受精卵(主に黒毛和種の体内受精卵)や、それらをETした乳用種妊娠牛の製造・供給、生産現場に出向いての採卵や受精卵移植、更には研究開発を行っています。1999年に発足して以降、受精卵の供給実績は年々増加しており、2021年度はついに3万個の大台を突破しました(図1)。

夏場の受精卵移植の活用

 日本の夏の暑さは年々厳しさを増しており、各地で40℃近い猛暑を記録するなど、暑熱ストレスを避けられない状況です。暑熱ストレスは乳牛にさまざまな弊害を引き起こしますが、繁殖成績の低下も例外ではなく、「夏場の人工授精の受胎率が10%前後だった」との話を耳にしたこともあります。その後、気候が落ち着いた秋に受胎したとしても、翌年の春産み分娩頭数を確保できないばかりか、分娩する頃には再び夏が到来し、分娩事故や周産期疾病の危険性が高まるといった悪循環に陥ることもあります。

 そこで利用していただきたいのが、当研究所で行う「シンクロET」事業です。農家採卵事業を推し進めていく中で、体内新鮮卵の最大の特徴である「高受胎性」を最大限に活かすため、採卵牛と並行して受卵牛を同期化しておき、採卵当日から翌々日にかけて移植する「シンクロET」事業を2015年から開始しました(図2)。17~18年度にかけて、当研究所職員が実施した月別シンクロETの集計データでは、夏場でも60%前後の受胎率を維持し(6月:61.1%、7月:65.1%、8月:58.4%、9月:59.7%)、暑熱期においても受胎頭数確保に有効な手段であることが確認できました(図3)。

 なお、シンクロET事業の一環として、農家採卵事業で採取した体内新鮮卵の提供も行っています(ちくさんクラブHPで123号10pを参照)。地域によっては配送の調整ができる可能性もありますので、興味のある方は当研究所までぜひお問い合わせください。

暑熱対策用混合飼料“なつこ”

 株式会社科学飼料研究所と全農ET研究所は共同で、暑熱対策用混合飼料“なつこ”を開発しました(図4)。血管拡張作用が期待されるナイアシン(バイパス製剤)を配合することで、体外への熱放散を促進し、胚死滅の大きな原因となる体温の上昇を軽減できます。また、ビタミン類も配合しているため、暑熱ストレスへの抵抗性も期待できます。

 図4 “なつこ” パンフレット

ご案内

 全農ET研究所では、ブログで繁殖技術の最新情報の紹介や凍結卵リストの発信も行っています。

全農ET研究所ブログ

http://etken-blog.lekumo.biz/

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