「生産性向上のための技術紹介」
腸の中から改善し、生産性向上~「生菌剤」と「酪酸製剤」~

2023.07

 養鶏場では、温度・湿度・換気量の変化、ワクチン接種、鶏舎の移動、産卵の開始、飼料の切り替え等により鶏に対し、さまざまなストレスがかかります。過度のストレスに曝されると、鶏の腸内細菌叢(そう)のバランスが崩れることがあり、その場合は悪玉菌(有害細菌:大腸菌、サルモネラ菌等)が増殖しやすくなり、生産性の低下や衛生状態の悪化を招くことがあります。今回はこれらのリスクを少しでも抑えるため、自然界に存在する有用な微生物や機能性成分を活用し、鶏の健康をサポートする添加資材についてご紹介します。

養鶏研究室

ポイント

生菌剤

・腸内細菌叢のバランスを保つことで飼料栄養の有効利用を促進、悪玉菌が異常繁殖しにくい腸内環境を形成

→鶏・豚の増体量や飼料要求率を改善

酪酸製剤

・腸内細菌叢を整え、有用菌の増殖を促進

・酪酸自体が腸粘膜形成のためのエネルギー源となる

生産性の維持・向上に有用な「生菌剤」

 生産性の維持・向上には、鶏の腸内環境の健全性が大きく関わってきます。今回は数ある添加資材の中でも、有用微生物を用いた「生菌剤」および、有機酸の一つである「酪酸製剤」を取り上げます。

 生菌剤は世界的にも広く利用されており、抗生物質に頼らず悪玉菌の増殖を抑制し、腸内環境を健全に保つ目的で活用されています。生菌剤の中でも、「枯草菌」という枯れ草や土壌等の自然界や私たちの身のまわりに広く存在している微生物は、学術的に「バチルス・サブチルス」という学名で呼ばれます。例えば、納豆には「枯草菌」の一種である納豆菌が用いられており、私たちにとっても馴染み深く、家畜飼料での有効性も報告されています。

 「生菌剤」を家畜に給与すると腸内細菌叢のバランスを保つことで悪玉菌が異常繁殖しにくく、かつ有用菌が繁殖しやすい腸内環境の形成に寄与します。結果的に、飼料栄養が効率的に吸収され、また腸内発酵も正常に進みやすくなり、鶏の生産活動を維持・サポートします。腸内環境が健全に保たれることで、鶏ふんの性状も良好な状態を維持しやすくなります。

飼料添加物「バチルス・サブチルスJA-ZK株」

 JA全農でも、枯草菌「バチルス・サブチルスJA-ZK株(以下、JA-ZK株)」と命名した独自開発の生菌剤があり(写真1・2)、当研究室でもその有用性を確認しました。

 コマーシャルブロイラー(Ross308)に対して、JA-ZK株を0〜42日齢の間、添加給与したところ、給与期間中の育成率、坪重量、飼料要求率が改善する傾向が認められました(図1)。また、36日齢時の腸内細菌叢のバランスを調べたところ、JA–ZK株の添加給与により大腸菌群数の比率が低下する傾向が確認されました(図2)。JA-ZK株の添加給与により腸内細菌叢のバランスが整えられ、生産性の向上につながったと考えられます。この有用性をもとに、くみあい飼料の製品にも広く利用されています。

写真1 JA-ZK株の発育コロニー

写真2 JA-ZK株の顕微鏡写真
(紫色:菌体 青緑色:芽胞)

「有機酸」の効果と酪酸

 「有機酸」は、酸性の有機化合物の総称であり、クエン酸、酢酸、ギ酸など私たちも生活の中で良く耳にするものがあります。酸化防止や抗菌性を期待して食品中に利用されるものもあり、用途によってさまざまな種類があります。中でも酪酸は腸内細菌叢を整えることで、ビフィズス菌等の有用菌が増殖しやすい環境を作り出します。また、酪酸自体が腸管上皮を形成するためのエネルギー源となり、家畜の腸管の発達を促す効果も期待できます。

 一方、酪酸は単体だと強い臭気を有するうえ、体内では小腸の上部で分解されてしまい、効果を発揮させたい小腸の下部まで到達しにくいという性質があります。そのため、「酪酸製剤」を供給するメーカーでは、酪酸を酪酸Ca、酪酸Naといった安定性の高い純粋な酪酸塩の状態にし、コーティングを施して小腸の下部まで到達させるような工夫を行っています。

「酪酸製剤」の効果と有用性

写真3 14日齢時におけるブロイラーの
盲腸の顕微鏡画像

 当室において、69週齢の採卵鶏(ジュリア)に対して、「酪酸製剤」を添加給与し、給与前3週間と給与後3週間の成績を比較しました。

 その結果、日産卵量と飼料要求率が改善する傾向が認められました(図3)。また、コマーシャルブロイラー(Ross 308)を用いて、0〜43日齢の間、「酪酸製剤」を添加給与したところ、給与期間中の増体重と飼料要求率が改善する傾向が認められました(図4)。さらに、14日齢時における盲腸絨毛および粘膜固有層の発達度合をスコア化したところ、酪酸の添加により明確にスコアが向上しました。このことから、酪酸の給与が消化管の発達に寄与していることが示されました(表1、写真3)。

まとめ

 鶏をはじめとした家禽はさまざまなストレスに曝されることが多いため、それらのストレスへの対策を講じることで発育や産卵成績を改善できる可能性があります。言い換えれば、適切な飼養管理のもと、鶏へのストレスがほとんどないような状況下では、添加資材を用いる必要はないのかもしれませんが、お悩みの場合には、さまざまな添加資材を試してみることで、更なる経営改善につながるヒントが見つかるかもしれません。

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