鈴木ビビッドファーム×JA道北なよろ×ホクレン農業協同組合連合会×ホクレンくみあい飼料株式会社×いろは肉店
生産から販売まで二人三脚 市場見据えた高品質生産を実現
2023.07
日本有数の養豚地帯の北海道で半世紀にわたり、高品質豚肉生産の技術と経験を培ってきた家族経営体がある。
年間約60度の気温差がドラマチックな四季を織りなす名寄市で、SPF豚の繁殖・肥育一貫生産を行う鈴木ビビッドファームだ。
全国でもきらりと光る飼養管理技術に磨きをかけ続けている。
安定経営の陰には、JA道北なよろ、ホクレン農業協同組合連合会などが営農から流通、販売まで熱意を持って伴走する姿があり、豚肉の魅力を更に引き出す農家のチャレンジも実を結ぶ。
Data
有限会社 鈴木ビビッドファーム
所在地:北海道名寄市字日進495番地18 創業:1975年 従業員数:4人
飼養頭数:3,000頭(うち母豚300頭) 年間出荷頭数:7,158頭
アマニ油粕を添加した飼料の給与で肉中のオメガ3系脂肪酸(α-リノレン酸)の量が大幅に増え、健康効果が期待される
食欲旺盛で元気いっぱいの豚。徹底して清潔に保たれている
子豚の保温箱の出入り口にカーテンを取りつけ、丈夫な体づくりへ温度管理を徹底する
経営のポイント
●データ活用し、種付けから肥育、出荷まで関係者が集まる月例検討会で検討
●安定的な高品質豚肉を生産するため、出荷時の体重コントロールと環境改善に取り組む
●地元の精肉店との連携、加工品開発で豚肉の魅力を高める
ロースは脂の甘みを感じやすくてオススメ!
北の大地から、おいしい豚肉を届けます!
左から妻のちはるさん、鈴木康裕社長、4年目の栃下壱樹さん、6年目の原子美加さん
月に1回の検討会の様子
Information
妻のちはるさんが腕によりをかけたチャーシューやウインナーを購入できます。
鈴木ビビッドファーム
種豚舎などの各施設。規模拡大した4年前に新築した
上物率は7割高品質でおいしい豚肉 元気になる豚肉を届けたい月1回、データ活用など総合検討
「より良い方法があったら、教えていただけたらと思います」
月例の検討会。分娩や分娩介助、子豚の育成管理を担当する従業員の原子美加さんが、子豚の保温箱に取りつけたカーテンの更新を持ちかけると、社長の鈴木康裕さんが参加者に〝知恵〟を求めた。検討会のメンバーは、鈴木さんや従業員、JA道北なよろ、ホクレンやホクレンくみあい飼料株式会社の担当者、獣医師ら総勢8人ほどが毎回そろう。午前中に豚舎を全員で見て回り、お昼を挟んで1時間ほど、次の検討会までの管理ポイントや細かな対応を確認する。
検討会では、種付けや分娩、離乳などの数値を記録し、データで状況分析が可能なJA全農の「くみあい養豚生産管理システム(Web PICS)」を活用している。各項目の数値を丹念に確認しながら、発情など母豚の個体別状況や入れ替えのタイミング、子豚の体調管理など多岐にわたり検討を重ねる。
「従業員、ホクレンさん、会長である父に支えられてこそチャレンジができる」と話す鈴木社長
意見交換やデータをふまえ配合している飼料
豪雪対策のため屋根のある浄化槽
きれいに保たれたシャワー室。紫外線で豚舎への持ち込み物を殺菌するスペース(写真左上)
経営安定化へ改善を続ける養豚業は、父で会長の正さんが1975年に創業した。2001年に法人化し、長年温めていたSPF豚生産に舵を切ると、03年に日本SPF豚協会CM農場に認定された。鈴木さんはモノづくりに夢を抱き、工業高校を卒業後、大手自動車メーカーの整備工として3年ほど働いた後、より中心的にモノづくりにかかわりたいと、04年に就農した。「子どもの頃から、農業というモノづくりの仕事が家業だという誇りもありました」と語る。4年前に経営を譲り受け、「ビビッド」の名の通り、「人もいきいき、豚もいきいき、元気を与える豚肉を届ける」という経営方針を引き継ぎ、同時に規模を拡大した。
出荷時の体重管理で上物確保 豚が過ごしやすいよう環境改善
肥育頭数は現在3000頭で、うち母豚は300頭。従業員4人でウィークリー方式を採用する。種豚舎、分娩舎、子豚舎を1棟ずつ、肥育豚舎を2棟持ち、堆肥舎と浄化槽も敷地内にある。農場の立ち入りを制限するダウンタイムは6日と種豚場レベルの厳しさだ。
高い商品性を目指して良質な肉質を追求する観点から、種豚は一貫して斉一性の高いJA全農のハイコープ豚を採用する。22年度の年間出荷頭数実績は7158頭。本州より1カ月ほど早い、出荷日齢約150日という回転の良さが特徴の一つだが、出荷時の体重にもこだわり、平均体重は115kg。さまざまなデータを含め、きめ細かい観察による体重管理が上物率を高めており、等級割合は「上」が年間平均で7割を占める。ホクレンの担当者は「素晴らしいのはこの上物率を維持し続けていることです」と話す。
安定出荷の起点として、従業員で繁殖・交配担当の栃下壱樹さんが、「一頭でも多く出荷したい」と重要な役割を果たす。肥育で成果を出すには、哺乳期の丈夫な体づくりが重要で、担当の原子さんは「大きくして出す」ということを心がけている。子豚のわずかな変化を見逃さず、体調を崩さないよう温度管理に最も気をつかう。大きな気温差に対応しながら安定的に高品質生産できているのは優れた管理技術の証だ。
加えて、環境改善でも成果を上げている。その一つが換気対策だ。舎内のアンモニア濃度が高いと、豚の消化器系や肺などの呼吸器系がダメージを受ける。そこで必要最小限の換気で、舎内全体により新鮮な空気が行きわたるよう、通路に循環扇を設置した。鈴木さんやホクレンの担当者らは豚の様子を注意深く観察しながら風量や向きなど試行を重ね、肥育期の死亡頭数は取り組み前の30~50%以下へ劇的に減らすことに成功した。
ホクレンとブランド化へ 地域連携や独自の加工品も好評
ホクレンは消費トレンドを的確にとらえ、生産現場につなぐ役割も徹底している。家庭で調理する巣ごもり需要が旺盛になったことを追い風に、ホクレンの提案で17年から食品卸やスーパーと連携して、餌にアマニ油粕を添加した豚の生産に取り組んだ。販売は好調で、正さんのアドバイスやホクレンのサポートを受け、昨年から全頭給与に踏み切った。
地域との連携も進む。市内の精肉店、いろは肉店では常時、鈴木さんの豚肉4部位を扱っている。鈴木さんと同じ2代目で専務の吉田直純さんは「SPF豚はアクが少ない。ロース肉は甘い脂が感じやすい、しゃぶしゃぶで食べるのが特においしいと好評です」と絶賛する。吉田さんは「地域活性化のためにも、地元の畜産農家と小売業者が連携する姿勢は大切にしたいです」と話す。
原料を地元名寄市産にこだわった「はちみつチャーシュー」とウインナー「白の貴婦人」
更に、鈴木さんの妻で広報担当のちはるさんが手がける加工品のチャーシューやウインナーも扱っており、好評だ。調理師免許を持つちはるさんが、おいしい豚肉の魅力を更に高め、たくさんの人に味わってほしいとレシピを考案し、原料もオール名寄産にこだわった。ちはるさんは「消費者と触れ合うツールとして活用し、今後は常温商品も作って、お土産などで幅広く食べてもらえるようにしたい」と意気込む。
さまざまな挑戦で着実に経営を拡大してきた鈴木ビビッドファームは25年に創業50年の節目を迎える。鈴木さんは「これから堆肥関連機器を導入するなど、耕種農家に認められる堆肥を提供していきたいです。そのために地域との一層の連携や道内の他の養豚農家とのつながりを強めていくことが課題であり、目標です」と次なる共創に向けて走り出している。
いろは肉店
●精肉・関連加工品の小売り、豚・牛・鶏・羊の肉やホルモンなど常時30~40品を扱う
●年配の常連客が多いが、トレンドを意識した売り場づくりで幅広い年代が利用する。
●バーベキュー人気もあり、通常の倍の厚さ 5、6mmにカットしたバラ肉も脂がしつこくなく売れ筋。
上品で甘い脂とやわらかい肉質が特徴のロース肉
Information
住所:北海道名寄市西4条南5丁目
従業員:5人
営業時間:9:00~18:30
定休日:火曜日
TEL:01654-2-2488
「インスタグラムを活用して販路を拡大し、地元の畜産農家とともに末永く店を続けたい」と話す吉田専務
鈴木さんの豚肉のロース、肩ロース、モモ、バラを常時扱う。モモ肉を使った生ハムはロングセラーで、バラ肉を使ったサムギョプサルなどは、いろは肉店がトレンドを踏まえて考案した最近のヒット商品だ
Comment
それぞれ4年ほど担当を務める、ホクレン旭川支所の梶野優紀さん(左)と、ホクレンくみあい飼料の笠崎貴之さん(右)。生産者に寄り添う梶野さんの“バイブル”は、身近な上司や先輩たち。「目指しているのは家族のような間柄です」と力を込める。笠崎さんは「鈴木社長はビジョンをしっかりと持ちながらも、常に耳を傾けてくれるので提案のしがいがあります」と感謝の気持ちで接している。
意見交換を欠かさない鈴木さん(中)とホクレン担当者
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