鹿児島全共種牛の部で名誉賞を獲得
手間惜しまぬ観察と管理で1年1産と短期出荷を実現

2023.07

 就農6年目にして、牛飼いにとって最も名誉ある賞を取った26歳の若手農家が鹿児島県霧島市にいる。昨年10月に開かれた鹿児島全共の種牛の部で名誉賞(内閣総理大臣賞)を受賞した落合新太郎さんだ。牛の変化を見逃さない鋭い観察力と手間を惜しまない飼養管理で、1年1産と8カ月齢での短期出荷を実践し、地域を代表する優良経営を実現している。

祖父と父から受け継いだ基本、観察と記録を大切にしています

落合新太郎さん(中)とご両親

ひなた牧場 落合新太郎さん

住所:鹿児島県霧島市福山町
飼養頭数:繁殖雌牛110頭(うち育成牛40頭)
※父・弘幸さんの飼養頭数との合計
作業従事者:家族3人(両親と落合さん)とパート従業員1人
農地面積:15~16ha

 牛を観察する真剣なまなざし、牛に触れる時に自然と下がる目じり、両親や地元JAの指導員らと話す時の優しい笑顔。数時間一緒にいるだけで、落合さんの実直さと牛への愛が伝わってくる。まじめさは牛舎にも表れており、全体的に整理整頓されていてきれいで、においもほとんどない。就農時から落合さんを見てきたJAあいら畜産指導課の酒匂翔吾さんも「とてもまじめで素直。お父さんに似て観察眼に優れ、牛にかける愛情も人一倍強い」と魅力を語る。

お母さんも大活躍!

 現在は、地域を代表する繁殖農家の父・弘幸さん、母・和子さんとともに繁殖雌牛110頭(うち市場出荷前の子牛40頭)を飼養し、年間80頭を地元の姶良(あいら)中央家畜市場に出荷。自給飼料としてイタリアンライグラスやライ麦などの牧草を計15haで栽培し、母牛の粗飼料は全て自給する。厳密には父とは別経営だが、牛舎や飼料、日頃の管理などは共同で行い、弘幸さんが母牛を中心に全体管理、和子さんが哺育牛、落合さんは主に育成牛の管理を担っている。

中学生で就農を決意 牛舎を新設し50頭導入

 幼い頃から牛飼いだった祖父を見て育った落合さん。祖父のかっこいい背中に憧れ、物心がつく前から牛舎が遊び場だった。小学生の時には父も就農し、世話する様子を見たり市場について行ったりするうち、自然と牛の可愛さや牛飼いの魅力に引き込まれた。中学生で進路を考え、就農を決意。「幼い頃から牛が身近にいて、迷いはなかった。作業は忙しくても、ゆっくりと流れる牛との時間が好きだった」と振り返る。地元の農業高校、農業大学校で畜産を学び、放課後や休日は祖父や両親の作業を手伝い、着実に飼養管理技術を学んでいった。

 農業大学校を卒業後、すぐに就農した。親元で働きながら、翌年には父の牛舎の横に新しい牛舎を新設。50頭を導入して経営を別にした。JA鹿児島県経済連とJAあいらが繁殖経営安定事業や畜産クラスター事業を活用し、牛舎の設置や牛の買い入れなど就農に向けた準備や申請など全般を支援した。

 子牛を導入した6年前は、子牛価格が高騰していた時期。初期費用を抑えるため、血統よりも体型がまっすぐきれいで、長く産める牛を優先的に選んだ。全共に出品した「さき」もその時に導入したうちの一頭だった。

就農時から落合さんを見てきたJAあいら畜産部の久平信昭次長(中)と担当の酒匂さん(左)

きれいに片づけられた牛舎で食い付きの良い母牛

乾燥TMR「モウ・キッズ」

配合飼料は全てJAの商品を使用

観察と記録を徹底 手間惜しまず基本励行

 両親とともに肥育農家が求める子牛を効率的に生産するため、地域平均よりも1カ月早い8カ月(240~250日)での短期出荷と、日齢+30~50kg程度での出荷を目標にしてきた。そのために大切にするのが、父・弘幸さんから教わった観察と記録を中心とする基本の励行だ。餌の食い込みや病気などの牛の変化を見逃さないようこまめに観察し、発情周期などを記録。観察補助として、牛舎にはカメラを2台設置するほか、「牛温恵」や牛向けウェアラブルデバイス「ファームノートカラー」を導入し、周期の乱れをすぐに把握し、対策することで分娩間隔を短縮している。

 ICT(情報通信技術)を活用して省力化は進めつつも、手間は惜しまない。牛床は毎週掃除し、牛が快適に過ごせるよう気をつかう。また、肥育農家に購入された後も、すぐに慣れることができるように子牛は毎日2時間、頭絡をつけて係留訓練もしている。

 餌は、JAの育成マニュアルを基に哺乳牛には乾燥TMRの「モウ・キッズ」や「げんき君」、育成牛には「育成の流儀」、母牛には「めぐみ」など、全てJA鹿児島県経済連が取り扱う商品を与えている。JAと相談しながら生育ステージごとに餌を変え、牛の状態を見ながら給餌量を微調整する。落合さんは「与える餌の内容を変えたり工夫したりするのではなく、“いつもの餌”を牛の状態に合わせて変えてあげるのが一番」と話す。

 観察と記録による丁寧な飼養管理の結果、平均分娩間隔は365日と繁殖農家が理想とする1年1産を実現。全国平均の400日超、JAが目標として設定する380日と比べても、圧倒的な数字だ。また、地域の平均より1カ月早い短期出荷も実現し、牛舎を効率よく回転させることで、コストが削減できるだけでなく、子牛に無駄な脂肪がつくことを防ぐことができているという。

 JAあいら畜産部の久平信昭次長は「まさに驚異的な数字。ご両親から受け継いだデータ管理と活用、丁寧な観察と飼養管理の賜物だ」と評価する。購買者からも「早期出荷で無駄な脂肪が少ない。餌の食いつきも良い」などと高い評価を得ている。

育成牛は2~4頭ごとに飼養

出荷牛に繋牧トレーニングをする落合さん

清潔に保たれた牛舎

全共へトレーニング場設置 “チーム鹿児島”で挑戦

 全共に向けては、日頃の管理の徹底だけでなく、美しい体形や毛質を維持するため、JAや霧島市、経済連や県と一体となり“チーム鹿児島”として入念に準備した。牛舎横に短管パイプで“トレーニングセンター”を自作し、姿勢を矯正するための踏み台に加え、扇風機を2台設置。毛質を美しくするために毎日水洗いの後、扇風機を当ててブラッシングし、調教にも1~2時間費やした。落合さんは「鹿児島の多くの畜産農家の代表として負けられないという気持ちが強かった」と話す。

 全共では「さき」の耳標をかたどった特注のピアスを付けて挑んだが、一次審査では「さき」がうまく立てなかった。そんな時でも両親や酒匂さん、一緒に出品した拵(かこい)正人さん、藤山粋(いき)さんらチーム鹿児島の皆さんからのアドバイスを素直に受けとめ、落合さんらしく「『さき』を優しくなでて褒めることで、リラックスさせた」。

 努力が実を結び、「さき」は最終審査で素晴らしい立ち姿を見せ、体高は135.4cmと本番で自身の最高値を記録した。先輩農家2人と見事第4区優等賞1席に加え、種牛の部の名誉賞を獲得。同部での鹿児島県の名誉賞獲得は、落合さんが生まれる前の1992年以来、30年ぶりの快挙だった。

 和牛の能力を見極める力を競う「和牛審査競技会」にも出場し、「女性・後継者の部」で優秀賞に輝いた。外見から和牛の能力を見抜く目が一流であることが証明された。

今は我慢の踏ん張り時 将来は200頭規模目指す

 全共に出場して以降、地元のテレビや新聞、専門誌などで多く取り上げられた。地域の農家はもちろんのこと、地域住民からも「全共見たよ」「すごいね」とたくさん声を掛けられるようになったという。今年3月には、日本航空(JAL)の国内線ファーストクラスの機内食に「鹿児島黒牛」が使用されるのに合わせ、JALの機内誌でも紹介された。試食会に出席してPRするなど、「鹿児島黒牛」の更なる知名度・イメージアップにも一役買っている。

 落合さんは「自分からつながりをつくるのが少し苦手だったが、いろんな人が声を掛けて応援してくれるようになり、とても嬉しい」と笑顔で話す。酒匂さんも「全共でみんなに応援されるうちに、日本一をとると口に出すようになった。今は本当に頼もしい存在になった」と成長を喜ぶ。

 配合飼料の価格が高止まりし、子牛価格が低空飛行を続ける今は我慢の時。とにかく牛をしっかり観察することを、いつも以上に心がけている。ここで踏ん張って経営を安定させ、「将来的に状況が改善してきたら200頭規模まで拡大していきたい。もっと良い子牛を提供できるよう勉強して技術を磨き、地域の改良の成果や血統を更に若い世代に引き継いでいきたい」と力を込める。全共を経て、落合さんの眼には、地域をけん引していこうとする強い意志が灯っている。

JALの機内誌を手に各メディアに取材対応

「今は我慢の時」と将来を見据える落合さん  

Memo 鹿児島全共種牛の部第4区(繁殖雌牛群)

概要

3産以上の3頭の繁殖雌牛を一つの「群」にして出品
母系3代以上が自県産なのが条件

狙い

能力の高い雌牛を地域に残し、特色ある血統を維持すること

「さき」をはじめとする出品牛3頭の評価

3頭とも素晴らしい体積を持ちながら輪郭鮮明で、体の締まり・骨締まりが良く、雌牛らしい品位がある。皮膚は薄く、ゆとりがあり、脂質も良好。肢蹄が強く繁殖雌牛としての適性の高さも感じた。

全共で「さき」を引く落合さんら

岸田首相から名誉賞を授与される落合さん

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