ET研便り
受精卵移植(ET)を活用して高受胎率を得る

2023.07

 全農ET研究所では年間約3万個の受精卵を供給しています。そのうち毎年8,000個ほどは当研究所の職員等が、生産者に出向いて移植を行っており、当研究所の基幹事業の1つになっています(表1)。今回は、受精卵を効率よく受胎させるための取り組みを紹介します。

 全農ET研究所の受精卵移植の流れ(図1)と、「選畜」「発情同期化」「黄体確認」「移植」について説明します。

1.『選畜』のポイント

初めに受卵牛の状態を確認する『選畜』を行います

未経産の場合
  • 月齢に見合った体格か、子宮や卵巣の発育がともなっているかを丁寧に確認します。状態(体格が小さい、子宮や卵巣が未成熟等)によっては、無理せず次回の作業まで延期します。
経産牛の場合
  • 分娩後の子宮や卵巣の回復具合を、1頭ずつ超音波画像診断装置を用いて丁寧に確認します。子宮内膜炎(図2)や卵巣静止の所見が確認された場合は、発情同期化を中止して治療を促します。
  • 蹄病や乳房炎に罹患している場合、治療に専念します。
  • ホルスタイン種の場合、周産期疾病が繁殖成績に悪影響を及ぼすため、乾乳期からの適切な飼養管理が分娩後の繁殖成績を左右します。

2.『発情同期化』の手法

生殖器等に異常の無い牛に対して『発情同期化』を施します

  • 膣内留置型プロジェステロン製剤を衛生的に挿入します。

3.『黄体確認』の判断基準

移植実施日の2日前~当日に『黄体確認』を行います

  • 発情予定日からの日数に適した、移植可能な黄体であるか超音波画像診断装置を用いて確認します(図3)。特に、黄体の大きさが不十分な場合や内腔が大きく黄体壁が薄すぎる場合は、移植を中止します。
  • 可能な限り、発情の有無を生産者に確認します。

図2  子宮内膜炎(膣内検査の結果)出典:ET研ブログ(2016.10)

4.『移植』の際のポイント

適した受卵牛にのみ『移植』を行います。

  • 寒い時期は特に、移植器が冷えないよう、前もって移植器を温めておきます。専用の発泡スチロールに保温剤を敷き詰めて、移植器や受精卵ストローを持ち運ぶこともあります。
  • 受精卵ストローや移植器は、常に衛生的に扱います。
  • 体高のある経産牛の場合は、踏み台を使います。
  • 移植器には必ず、サヤカバーを使います。
  • 補助者に外陰部を開いてもらい、アルコール綿などで拭き取り、糞などを膣内に持ち込まないように衛生的な状態で、移植器を挿入します。
  • 子宮の操作に無理は禁物、子宮内膜から出血させないように注意します。
  • 外子宮口まで移植器が進みにくい場合は、外陰部を膣鏡で開き、外子宮口の位置や向きを確認します。
  • 黄体側の子宮角深部に移植器先端が到達後、受精卵をゆっくり押し出します。

図3 超音波画像診断  出典:北海道牛受精卵移植研究会(2017)

ご案内

 全農ET研究所では、ブログで繁殖技術の最新情報の紹介や凍結卵リストの発信も行っています。

全農ET研究所ブログ http://etken-blog.lekumo.biz/

この記事をシェアする

  • LINEで送る
  • Facebookでシェアする

おすすめ関連記事

他の記事を探す

蓄種別
テーマ別