知多アグリ 愛知県阿久比町 杉浦康治さん
養鶏と米の2本柱の経営 地域になくてはならない農業を実践

2023.10

 愛知県阿久比町の株式会社知多アグリ(杉浦ファーム)は、採卵鶏と米の二本柱の経営に取り組む。大切にしているのが、地域に根差した経営。地域の農家と協力し、餌や鶏ふんの地域循環を実践する他、地元小学生の農業体験の受け入れを20年以上続けている。卵の自動販売機も人気を集めるなど、地域になくてはならない存在として活躍している。

■取材は飼養衛生管理基準を順守し、家畜防疫に配慮して行いました。

 鶏舎内等、一部の写真は農場の資料提供の下、掲載しております。

鶏も人間もきれいで快適が一番 防疫対策や鶏舎の清掃を徹底

株式会社  知多アグリ

代表:杉浦康治さん

住所:愛知県知多郡阿久比町横松字中側43

飼養羽数:採卵鶏19万3,000羽、ひな3万8,000羽

作業従事者:本人と妻のあゆ美さん含め18人

鶏舎の数:育成舎2棟、採卵鶏舎9棟

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杉浦康治さん㊨と妻のあゆ美さん

 幹線道路を外れ、少し進むと農場の入り口に設置された消毒ゲートが見えてきた。車両の消毒後、車を降りて消石灰がまかれた道を抜けると、社長の杉浦康治さん(38)が出迎えてくれた。事務所や集卵舎内はきれいに整頓され、清潔感があふれる。JAあいち経済連畜産課の宮下直樹さんとJAあいち知多畜産センターの和田晃範さんは、口をそろえ「基本的な防疫対策が徹底され、非常に清潔な鶏舎が維持されている」と話す。

 目立つところの清掃は毎日、エアーブローでの鶏舎清掃も月に2回は行うという。鶏舎は、クーリングパドを取り入れた冷却や屋根に遮熱塗料を塗るなどして、夏場でもストレスが少ない環境で飼育している。

 「鶏も人間もきれいで、快適な環境がいいですよね」と杉浦さんは笑顔で話す。

知多アグリの従業員の皆さん
入り口には消毒ゲートを設置

父、祖父の死を乗り越え 法人化や米作りを軌道に

 知多アグリは、1950年ごろに杉浦さんの祖父が農業を始めたことが始まり。元々は、米と野菜を中心に経営していた。その後、杉浦さんの父親が養鶏を始め、低床鶏舎を建設。養鶏と米を中心とした経営に切り替えていった。

 杉浦さんは3代目。「元々は就農しようとは思っていなかった」。だが、農業大学校で農業経営を学ぶうち、「意外とできるかも」と思ったという。学生時代はサッカーやボクシングなどスポーツに打ち込み、体力にも自信があった。農業大学校を卒業後、県内の農場での研修を経て2006年に就農した。

 就農後は、養鶏をメインに担当し、順調に技術を磨いてきた。しかし、就農して10年が経った16年、育すう舎の建設や法人化の話が進む中、父親と祖父が他界。「法人化の話しも進めないといけないし、米作りは素人同然。当時は大変だった」と振り返る。その時に杉浦さんを支えたのが地元の農家やJA。杉浦さんに親身に寄り添い、米作りや法人化などをサポートした。杉浦さんは「声をかけてもらい、本当にありがたかった」と感謝する。

 妻のあゆ美さんは「結婚当初から、常に仕事のことを考えていて、そのための努力は惜しまない人です」と話す。

目立つ外観の自動販売機が人気 こだわり卵と米が店内にずらり

 現在、ウインドウレス鶏舎で、赤玉の「ボリスブラウン」「シェーバーブラウン」、白玉の「ジュリア」「ジュリアライト」を飼育。年間約3500tの卵を出荷する。

 知多アグリの卵は、甘味とこくがあり、黄身が濃い。配合飼料は、JA東日本くみあい飼料の「東海きらめき14NEO」などを使い、餌には飼料用米(もみ米と玄米)を混ぜる。海藻やヨモギなども与え、こだわりの味を実現している。

 また、あいち経済連とも協力し、定期的にサルモネラ検査を実施。おいしく、安全・安心な卵の出荷を心がけている。

 この卵を求める人で人気を集めるのが、町内に設置された「杉浦ファーム自動販売機」だ。

 21年にリニューアルし、台数を増やした。コンテナハウスの建物の側面には、「農場直送」の文言と共に卵と米の写真がどんとデザインされ、遠くからでも目立つ外観だ。

 店内に入ると、ずらりと自慢の卵や米が陳列された自動販売機が並ぶ。価格は商品内容によってさまざまだが、お得なファミリーパック(卵の詰め合わせ)の価格は、1.2kg×2パックで800円。「気軽に食べてほしい」との思いから、お手頃な価格で販売し、消費者の心をつかんでいる。自家生産の米も販売しており、中には卵とお米をセットで買っていく人も。「よく買いに来ますよ」と話し、取材中も、続々と卵を求める人が訪れていた。

 米は、主食用米25ha、飼料用米12haで栽培。主食用米は、化学肥料を使わず減農薬で栽培し、景観作物のレンゲを緑肥としてすき込んで栽培。地元の農家有志でつくる「阿久比米れんげちゃん研究会」に所属し、「阿久比米れんげちゃん」のブランドで販売している。春には田んぼにレンゲの花が咲き、地域の人々を楽しませる。

目を引く外観の「杉浦ファーム自動販売機」

店内にずらりと並んだ卵の自動販売機

お手頃な価格で人気のファミリーパック

レンゲをすき込んで栽培した「阿久比米れんげちゃん」㊧と自慢の卵

清潔に保たれた鶏舎

左からJAあいち知多・和田さん、杉浦さん、JAあいち経済連・宮下さん、JA東日本くみあい飼料・田口稜さん

飼料用米などを混ぜた餌

農業体験の受け入れを20年以上 農業の楽しさ、大切さを紹介

 「地域の協力や理解がないと、農業、特に畜産は成り立たない」と話し、地域に根差した経営を大切にする杉浦さん。名古屋市の通勤圏に位置する同町では、農場周辺にも住宅が多い。地域住民との関係づくりが重要だ。

 知多アグリでは、近隣の小学生の農業体験の受け入れを20年以上前に始めた。父親の代から始め、今は杉浦さんが遺志を継ぎ、続けている。

 年3回程度、毎回150人ほどの児童を受け入れる。農場の見学や田植え、稲刈りなどを体験してもらう。児童や先生からは好評で、大人になっても、卵や米を買いに来る人もいるという。中には、農業体験に参加した子どもから話を聞いて、卵を買いに来るようになった親も。

 杉浦さんは「体験を通して地元の農業や養鶏のことを知ってもらい、理解につながればうれしい」と話す。

 知多アグリでは、農業大学校の実習生の受け入れも行う。これまでに10人を受け入れ、受け入れ期間の40日間で養鶏を中心に学んでもらっている。現場の作業だけでなく、獣医を招いた衛生管理の検討会などにも参加してもらい、養鶏を取り巻く関係者の声も届け、養鶏の難しさを知ってもらう。一方で、必ず「農業はやってみると面白いよ」と伝え、ポジティブな印象を持ってもらうことは忘れない。実習が縁で、JAや知多アグリに入社した人もいるという。「お世話になった農業大学校や地元の農業のためになるかもしれない」と、杉浦さんは今後も受け入れを続けていく考えだ。

児童に好評の農業体験

近隣農家と循環型農業に挑戦 自給飼料の拡大目指す

 今、杉浦さんが力を入れているのが、循環型農業の実践だ。養鶏で出た鶏ふんを堆肥化し、自社や近隣農家へ供給することで農地に還元。鶏ふんを使って栽培した飼料用米などを餌にして循環させる。杉浦さんは「地域循環のストーリー性が面白く、近隣農家と協力すれば、輸送費も抑えられる」と意義を話す。

 現在、鶏ふん堆肥は年間2000t生産し、5%ほどを自社で活用している。耕種農家が使いやすいよう、粒にして製造している。餌として与える飼料用米は、自家産の他、近隣を中心に県内産が中心だ。知り合いの農家とも協力し、WCS(発酵粗飼料)の生産にも乗り出している。

 今後の目標について、「10年後、20年後を見据え、地域とも協力し、少しずつでも自給飼料を増やし、堆肥の有効活用も進めたい。近年大発生している鳥インフルエンザについても、行政やJA関係者と連携しながら、業界を守るために防疫対策に取り組んでいきたい」と力強く語る杉浦さん。祖父や父の思いを継ぎ、挑戦を続ける。

集卵室の様子

循環型農業を進めたいと話す杉浦さん

青々とした知多アグリの田んぼ

レンゲの花

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