ET研便り
暑熱期にこそ受精卵移植 その2
2025.07
前号に引き続き暑熱が牛に与える影響について報告します。近年の猛暑により、牛の受胎率に悪影響が出てきています。夏場の受胎率が低下して秋に受胎が集中することにより、月ごとの素牛市場出荷頭数に偏りが生じ、結果として素牛価格にも影響が生じる可能性があります。
ET研究所
1. 暑熱による月ごとの黒毛和牛出生頭数に対する影響
2019年から2023年度の黒毛和牛出生頭数を見ると、月ごとの出生頭数に差が生じており、8月の出生頭数が一年で最大となっています。この背景として、暑熱による受胎遅延が発生し、暑さが落ち着いてきた秋口に受胎が集中していることが考えられます(牛の妊娠期間は280~290日程度、8月出生の和牛の受胎時期は前年の10~11月に該当)。この傾向は都府県だけでなく、北海道または全国の乳牛・交雑牛出生で同様の傾向が出ています(図1~3)。

2. 和牛素牛の家畜市場上場頭数と取引価格の動向
上述の出生頭数の偏りは、主要家畜市場の上場頭数および取引価格の傾向にも影響を及ぼしている可能性があります。
市場の取引価格は毎年いろいろな要因で変わりますが、一例として下記のパターンで比較してみました。

結果(図4)
家畜市場上場頭数
1,198頭(2023年度3月)-1,423頭(2024年度5月)
=-225頭
家畜市場での平均取引価格
705千円(2023年度3月)-666千円(2024年度5月)
=39千円

3. 一年を通した効率的な受胎の重要性
これまでは和牛素牛の取引は家庭での和牛消費が高まる年末付近(12月頃)が出荷頭数・取引価格ともに上昇する傾向があることが認識されていました。もちろん各市場での素牛の需給状況等の影響等も大きいかと思いますが、今後は暑熱による分娩時期の偏りも取引価格の決定要因となる可能性が高く、一年を通した効率的な受胎がより一層重要になってくると思われます。前号で紹介した通り、受精卵移植は人工授精と比較して暑熱の影響を受けにくいため、牛の受胎率向上に有効です。前号記事を再度参照したうえでご一読いただけますと幸いです。
ちくさんクラブ153号 ET研便り 「暑熱期にこそ受精卵移植」参照
4.当研究所製造の和牛精液を活用した不受胎対策
全農ET研で繋養している和牛種雄牛の精液は精子封入数を通常よりも多く製造しており、不受胎対策としての活用を提案しています。ゲノミック評価技術を基に選抜しているため、受胎率だけではなく枝肉成績にも期待できます。
最近「北桜丸(ほくおうまる)」の後代検定成績が確定したので紹介いたします。「北桜丸」は北海道育種価(脂肪交雑)1位(2019年7月から2期連続)の「まるの1」の息牛で、特に去勢の枝肉のBMS・ロース芯・歩留まりに優れており(表1)、共励会で入賞した事例もあります。詳細はET研究所の和牛ブルブックをご参照ください。

5.最後に
全農ET研究所では夏場の受胎を得るため、日々の業務・研究に取り組んでいます。今後とも、よろしくお願いいたします。また、全農ET研究所ブログで繁殖技術の最新情報の紹介や凍結卵リストの発信も行っていますので、こちらも合わせてご覧ください。
案内
ET研究所は、体内受精卵・体外受精卵生産および受精卵生産に関する技術開発に取り組んでいます。こちらの取り組みにつきましても、今後生産者の皆様に紹介していきたいと思います。
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