ET研便り
乳牛改良で注目度が上昇している遺伝子・指標
2025.10
前号までは暑熱対策としての受精卵移植の有効性について取り上げました。涼しくなってきたこれからは、人工授精をする頻度が増えてくる時期です。今回は全農ET研究所が取り扱う乳牛精液の特徴を紹介します。
ET研究所
1. GENEX社の乳牛精液
GENEX社は米国の協同組合組織として1933年に「CRI(Cooperative Resources International)」の一部としてスタートし、現在は米国で受精卵製造を行うPEAK社と協力しながら種雄牛の造成を行っています。飼養の手間が少なく、高い生産性と長命・多産性を兼ね備えた、経済性を重視した乳牛を生み出せる凍結精液を提供することができます。
今回は、「人にも牛にもやさしい」特徴を持つ種雄牛を紹介します。
2. 除角の手間を省ける「無角遺伝子」
ホルスタインをはじめとする乳用種は、通常は必ず角が生えた状態で生まれてきますが、けがを防止するために、多くの場合は除角処理が行われます。アニマルウェルフェアによる除角の指針では、生後2カ月齢以降の除角には麻酔の使用が推奨されており、人にも牛にも負担のかかる作業です。
しかし、無角遺伝子(P)を保有している牛には角が生えないため、除角作業が不要になります。無角遺伝子は顕性遺伝子※であるため、「PP型」の種雄牛と交配すれば、100%無角の子牛が生まれます(図1)。
※顕性遺伝子とは
片方の親が、もう片方の親の遺伝子の特性を押さえつけるような遺伝子をもつ場合、その遺伝子を顕性遺伝子という。

3. 少ない飼料でも高い泌乳能力
「乳量は落としたくないが、飼料コストを抑えたい」という要望が強くなっているなか、GENEX社ではその両立を実現するための改良に特に力を入れています。
「FSAV(飼料節約量)」は、体重と搾乳量をベースに推定された、節約される飼料の予想量(ポンド)を示した指標です。数値が高いほど、娘牛の飼料効率が高いことを意味します。
「1HO17203 エアルーム」(図2)は、FSAV:+483、乳量:+1,461kgと非常に優れた泌乳能力と飼料効率を持っています。体高が低く、搾乳性も高く扱いやすい牛です。

4.体高を高くせずに搾乳しやすい乳器をつくる

従来の乳器の指標(UDC)を元にした改良では、乳器の改良に伴い体高もあがり、牛が扱いにくくなるという欠点がありました(図3)。そこで、PEAK社では牛を大きくすることなく、搾乳性が高く耐久性に優れた乳器改良を行うことが出来る独自の指標「MUI(現代的乳器スコア)」を開発しました。MUIを高くすることにより、乳牛の生涯乳量と長命性の向上が期待できます。
GENEX社で「MUI:+13.8」と最高評価を受けている「1HO16864 プリメロ」(図4)は、適切な容量と強さを持ち、斉一的な乳頭配置をした搾乳性の高い乳器を作ることができ、体高も中程度に抑えることができます。

5.おなかがゴロゴロしなくなる?「A2牛乳」
牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人は、乳糖不耐症であることが原因とされています。乳糖不耐症になる原因の一つとして、タンパク質β-カゼインが挙げられます。β-カゼインにはA1型(A1A1、A1A2)とA2型(A2A2)の遺伝子があり、A1型であることが消化不良を起こしていると言われています。つまり、A2型(A2A2)遺伝子の牛の牛乳であれば消化不良が緩和される可能性が見出されています。
A2牛乳をより高単価で販売する流れも出てきているため、今後はA2型(A2A2)遺伝子を持った牛で改良を進めていくのも一つのトレンドになるかもしれません。
この改良を進めていくには、遺伝子検査でβ-カゼインの遺伝子型を調べることが必須です。全農畜産サービス㈱で米国NEOGEN社の遺伝子検査が実施可能ですので、ぜひご活用ください。
6.最後に
全農ET研究所では、これらの特徴を持つGENEX社の精液・その精液によって製造した受精卵の供給を行っています。詳細については、下記を確認してください。
GENEX社
案内
全農ET研究所は、体内受精卵・体外受精卵生産および受精卵生産に関する技術開発に取り組みます。これらの取り組みについても、今後生産者の皆様に紹介していく予定です。
全農ET研究所ブログ(受精卵情報)
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