まだ間に合う!夏からはじめる牛舎のサシバエ対策

2025.07

1 家畜被害の状況

❶ 牛への被害

 サシバエは日本全土に生息している吸血性のハエです。気温が上昇する春から秋にかけて発生しやすく、動物の血液を栄養源とし雌雄ともに吸血します。家畜の中では特に牛の血を好みます。吸血は主に朝夕の涼しい時間帯に行い、それ以外のほとんどの時間は牛舎周辺の草むらで休息します。

 サシバエはその吸血行動により、以下の3つの被害を牛にもたらします。

サシバエの写真

●ストレス

 吸血により引き起こされる強い痛みや痒みが牛にとって大きなストレスとなります。

●生産性低下

 サシバエが牛舎にいることで牛は落ち着かなくなり、睡眠障害や飼料摂取量の減少が起きることがあります。これにより乳量・増体量が低下し、生産性が低下します。

●疾病の伝播

 牛の疾病には血液を介して感染牛から非感染牛へ伝播するものがあります。サシバエは吸血昆虫の中でも個体数や1日の吸血回数が多く、疾病を伝播するリスクも高くなります。サシバエが媒介する可能性がある疾病については、次項で説明します。

❷ サシバエが媒介する疾病

 サシバエが媒介する牛の疾病の代表例として、牛伝染性リンパ腫(EBL)とランピースキン病(LSD)が挙げられます(表1)。

 EBLは、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)に感染した牛のうち数%が発症するとされています。発症すると元気消失や乳量減少など生産性に影響を及ぼします。

表1 サシバエが媒介する牛の主な疾病

 感染源はBLV感染牛由来の血液や乳汁で、血液を介する感染経路としては吸血昆虫や注射針等が挙げられます。本疾病に対する治療法やワクチンはないため、BLVに感染させない対策が重要です。

 LSDは、2024年11月に国内で初めて発生が確認された牛の疾病です。ランピースキン病ウイルス(LSDV)に感染することで引き起こされ、発症すると発熱、皮膚の結節、乳量減少などがみられます。

 LSDが発生すると発症牛の生乳出荷や移動は自粛が求められるため、農場経営に与える影響が大きいです。LSD発生時の対応については、今後「家畜伝染病」と同程度の法的強制力を持つ措置を行える方針が農水省より示されており、対策はより強化される見通しです(2025年5月執筆時点)。本疾病に治療法はありませんが、ワクチンを使用することで発症を予防することが可能です。感染源はLSDV感染牛由来の血液や唾液で、吸血昆虫を介して感染が拡大します。

 今回挙げた2つの疾病はいずれも牛の生産性に影響を及ぼし、またサシバエの吸血により感染が拡大します。そのためサシバエを含めた吸血昆虫の数を減らす対策は、これらの疾病を予防する上で重要です。

 サシバエを減らすには成虫・幼虫対策の実施が必要です。特に成虫対策では牛舎周辺の除草などの環境整備が必須となります。幼虫対策に関しては、2022年4月号をご参照ください。

サシバエ幼虫対策 2022年4月号(Vol.139)

2 除草でサシバエ対策

❶ 上手な除草剤の活用

 サシバエは高い飛翔能力を持ちますが、吸血後は体が重くなり畜舎周辺の葉陰で休息をとります。そのため畜舎周辺を除草することでサシバエの休息地を減らすことができ、畜体への被害低減が期待できます(図1)。

 一般的な草刈り機での除草では雑草の再生が早く、夏場の作業は熱中症の可能性もあるため、除草剤を活用した効率的な除草がおすすめです。

図1 除草によるサシバエ個体数の差
図1 除草によるサシバエ個体数の差

❷ 除草剤のタイプ

 畜舎周辺におすすめの除草剤を紹介します(図2)。

図2 除草剤特性のイメージ

●非選択性茎葉処理除草剤

 散布した場所の植物をすべて枯らす除草剤です。最もメジャーな除草剤で種類も豊富です。大別すると「根まで枯らす」タイプと「根まで枯らさない」タイプが存在し、それぞれで使用場面が異なります。

グリホサート系茎葉処理除草剤(根まで枯らすタイプ)

 根まで枯らすため比較的雑草の再生が遅い。一方で、畦畔やのり面などでは雑草の根がなくなることで崩壊の可能性があることに留意する必要がある。

使用場面:コンクリート舗装された路面、崩壊の心配がない平場など

代表薬剤:ラウンドアップマックスロード(日産化学)など

グルホシネート系茎葉処理除草剤(根まで枯らさないタイプ)

 根まで枯らさないためグリホサート系よりも雑草の再生が早い。一方で、根が残るため畦畔やのり面を維持したまま除草ができるので活用の幅は広い。

使用場面:傾斜地、畦畔・のり面、電柵・牧柵の周りなど

代表的薬剤:ザクサ(北興化学)など

●土壌処理除草剤

 土壌表層に処理層(除草成分の層)を作り、これから生える雑草を枯らす除草剤です。長期間除草効果がありますが、風雨などによる処理層の崩れや化学的分解などによって効果は減少します。すでに発生している雑草を枯らすのは苦手です。

使用場面:草地全般

代表的薬剤:カソロン(北興化学)、ダイロン(北興化学)など

 使用する際は、ザクサとダイロンの混用がさらにおすすめです。各薬剤の長所を生かし合うことができ、長期間抑草することができます。ザクサの「大きな雑草も全て枯らすが根まで枯らさない」「再生は比較的早い」といった点と、ダイロンの「長期間、抑草する」の特長が合わさり、畦畔やのり面を崩さずに長い期間、抑草することができるようになります。詳細はウェブサイトをご覧ください。

ザクサとダイロンの混用

❸ 除草剤の安全な使用

 除草剤は散布する場所や枯らしたい雑草によって濃度や使用可能回数が異なります。なお、畜舎周辺での使用については農薬登録上「樹木等」の扱いになります。散布に際しては、農薬のラベルに記載されている使用方法などを確認してから使用してください。

 除草剤は用途を守って使用することで、経営にとって大きなメリットがあります。正しく農薬の知識を習得して、安全な使用を心がけましょう。不明点等は地元JAまでお問い合わせください。

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