地域農業守るため銀行員から転身

2022.08

 秋田県由利本荘市(ゆりほんじょうし)に銀行員から転身し、黒毛和種の繁殖に取り組む若手農家がいます。株式会社たかはし畜産で代表取締役を務める高橋将也(たかはしまさや)さん(35)です。国の畜産クラスター事業などを活用して3年前に整備した畜舎で増頭し、現在70頭にまで規模を拡大しました。効率的な経営を追い求めながら、故郷の農村の景観などを守るために着実に歩んでいます。

 高橋さんの畜舎は、山々を望む同市東由利地区の水田地帯にあります。約1400m2の畜舎は元々、祖父や父が耕してきた水田を活用し整備しました。天井の高い、通気性の良い開放型になっており、母牛と生まれた子牛を基本的に1人で育てています。

1.広々とした開放型の畜舎

故郷の暮らし「守りたい」 別経営でもこだわりを引き継ぐ

 大学卒業後、Uターンして地元の銀行に就職しましたが、4年間の勤務を経て将来設計を見直すことにしました。「農家の高齢化が進む中、地元の景色や兼業農家の父が担う稲作と畜産業の地域における大切さを改めて考えました」という高橋さん。「大好きな地元での暮らしを維持・継続して守りたい」との思いから就農を決意。先進農家の㈱ライブストックさとうで研修を重ね2018年、父とは経営を別にして新たに法人を立ち上げました。畜産クラスター事業などを活用して整備した畜舎が19年に完成、父から買い取った母牛6頭を導入して繁殖農家としてスタートを切りました。

 経営はそれぞれで行っているものの、祖父の代から始めた畜産業を引き継いでいます。「小学生時代から祖父の手伝いで牛と触れ合う機会がありました」と語る高橋さんは、良い牛を生み出す1つに血統重視を挙げます。「祖父の代から血統の改良にこだわっていました」と説明し、「自分も同じこだわりを引き継いでいるかもしれません」と分析します。

 共進会や市場に出向いた際の情報交換も大事にしています。肥育農家のニーズを探る研究の機会だからです。「銀行員時代に取引先に合わせた金融商品を提案していたのと同じ」と、当時の経験が生きています。

 またSNSなどで情報を得て、「発育良好で血統の構成が良い」牛づくりを目指しています。就農当時からこうした姿を見てきた北日本くみあい飼料の担当者は「高橋さんはとにかく勉強熱心。常に情報を収集して経営にどう活かせるかを考えています」と話します。

省力化や自給飼料に注力 堆肥の商品化も視野

2.粗飼料給餌を助けるベールフィーダー
3.哺乳ロボットに集まる子牛たち

 土・日曜など一部を除き1人で経営しているため作業の効率化は重要です。母牛向けには牧草など粗飼料を与える給餌機、子牛向けには、哺乳ロボットを導入し活用しています。成長ステージに合わせて、ストレスをかけない管理を行っています。今後は牛の分娩目標である確実な1年1産の実現へ、発情発見装置を活かして省力化と生産性向上を目指す考えです。

4.笑顔が絶えない高橋さんとJA秋田しんせいの佐藤大地さん(右)の打ち合わせ
5.堆肥づくりを行う高橋さん

 また、自給飼料にもこだわっています。畜舎に隣接する圃場(ほじょう)(水田)を活用して稲発酵粗飼料(稲WCS)を生産するなど、高橋さんはできるところから取り組むことを心がけています。飼料価格をめぐっては、今後も高値続きが予想されることから、粗飼料の生産体制の見直しを検討。「稲WCSを収穫した後の田んぼを使わないのはもったいない」として二毛作の可能性を模索しています。

 敷料などについても戻し堆肥としての有効活用や、堆肥の商品化も見据えて検討しており、資源循環型農業の構築を目指しています。将来的には堆肥を地元の土づくりに活かしてもらうことを目指すなど夢は尽きません。

 東由利地区は県内でも黒毛繁殖経営が盛んな地域です。高橋さんは「研修先を含めて経験豊富な大勢の先輩農家から日々学んでいます」と感謝します。作業の際にかぶっていたキャップには「自分の信じる道を行け」との文言がありました。「学生時代にともに歩んできたスキー仲間へのメッセージ」としながらも、前進し続ける高橋さん自身へのエールにも見えました。

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