「夏場対策のポイント」
夏が来る前にサシバエ対策を!

2023.04

 毎年のように牛や人間を悩ませる害虫「サシバエ」。サシバエは気温が上昇する春~初夏にかけて発生しだし、秋頃に最も多くなります。本号では、サシバエの特徴と早期からの対策方法について、笠間乳肉牛研究室で実施している事例も交えてご紹介します。

笠間乳肉牛研究室

サシバエの特徴

図1 サシバエの口器(針状でとがっている)
図2 堆肥中に発生した蛹(さなぎ)

 サシバエは日本全国に分布する吸血性のハエです。雌のみ吸血するアブなどと異なり、雌雄ともに吸血します。成虫の大きさは、雄は体長3.0~6.5mm、雌は体長5.0~8.0mmと、雌のほうがやや大型です。同じく牛舎でよく発生するイエバエとは見た目は似ていますが、サシバエは皮膚に挿し込んで吸血するための硬く長い針状の口器を持っているという違いがあります(図1)。

 サシバエは猛暑時や夜間(光がないところ)はほとんど活動せず、春や秋の暖かい日中や、夏場は朝夕の涼しい時間帯に牛舎に出入りしています。飛翔能力が高く、吸血対象を探して数km飛行することもあります。

 サシバエは家畜の糞中に産卵するため、牛床や堆肥が主な発生源となります(図2)。親は1回に100~200個の卵を産み、それが約2週間で成虫になります。成虫は羽化後約1週間で産卵を開始するため、あっという間に増殖します。一対の雌雄が、数カ月後には数万匹になるとされています。ちなみにイエバエもほぼ同じライフサイクルですので、ハエだけで数百万~数千万匹になるのは想像に難くないでしょう。

サシバエの被害

 サシバエは家畜の中でも牛や馬などの大型動物を好んで吸血します。吸血時には強い痛痒さをともなうため、大きなストレスになります。そのため牛は尻尾を振ったり、肢を上げたりして、サシバエを追い払おうとします。また群飼の場合は、サシバエが寄りつく部分を減らすために、複数頭が一カ所に集まる行動を示すことがあります。このようなサシバエ回避行動によって、本来採食や休息に充てるべき時間が少なくなり、飼料摂取量や乳量の減少をもたらします。また病原菌を媒介するともいわれており、疾病の伝播による生産性の低下も懸念されます。サシバエは人間を刺すこともあるため、農場で作業する方も注意が必要です。

成虫・幼虫対策を両輪で

 サシバエは1日2~3回、1回に約5分間吸血するとされています。吸血時以外は牛舎外の草木にとまって休んでいるため(図3)、牛舎内には成虫全体の5~10%ほどしかいません。つまり牛舎外も対策しないとほとんど効果はありません。また成虫よりも幼虫のほうが圧倒的に多いため、成虫・幼虫対策を両方実施する必要があります。

 幼虫対策は、発生源(糞尿・堆肥)への対策が基本です。発生源となり得る糞尿は速やかに取り除いて乾燥させることで、幼虫が生存できない状態にすることが求められます。また幼虫が成虫になるのを防ぐIGR剤を発生源に散布することも効果的です。ただし、牛が直接触れる場所には散布しないようにしてください。

 成虫はほとんどの時間帯を牛舎外の草木で休んでいますので、対策として周辺の草刈りなどの環境整備と、あわせて成虫の分布を知ることが重要です。草木の中でも好みがあり、特に多くとまっている“ホットスポット”を見つけられれば、重点的な対策が可能になります。直接の対策には、噴霧殺虫剤を散布する方法があります。ただし、薬剤耐性防止のためシーズンごとにローテーションするなど、使い方には注意を要します。

図3 コブシの葉にとまるサシバエ

研究室での対策事例

図4 笠間乳肉牛研究室におけるサシバエの分布
図5 殺虫剤散布の様子(煙霧機を用いて散布)

 一昨年度より、当室では定期的なサシバエ対策を実施しています。昨年は、繁殖牛舎周辺の木々や草むらに多くの成虫が潜んでいることが分かりました(図4)。この“ホットスポット”を中心に、4月末~10月末にかけて1~2週間に1回のペースで噴霧殺虫剤を散布しました(図5)。幼虫対策としては、糞尿が常時蓄積する部分にIGR剤を散布しました。

 昨年は春先から対策したことで、夏頃に対策を始めた年より7割以上、サシバエの被害を減らすことができました。皆さんも“ハエ対策は夏が来る前から”、を心がけてみてください。

この記事をシェアする

  • LINEで送る
  • Facebookでシェアする

おすすめ関連記事

他の記事を探す

蓄種別
テーマ別