海外レポート アメリカ合衆国
全農ヘイ(株) 城谷悦啓(じょうや よしひろ)駐在員レポート

2025年のアメリカにおける粗飼料生産・出荷情勢

2025.10

米国西海岸北部ワシントン州パスコにある全農ヘイ(株)(以下、ZHI)は輸出向け粗飼料の集荷・製造を行っています。粗飼料の輸出入を担当している城谷悦啓駐在員が、2025年におけるZHIの集荷地域(コロンビア盆地南部地域)の粗飼料生産状況と米国産粗飼料の市場情勢、ZHIの粗飼料製造体制についてレポートします。

①米国産粗飼料の生産情勢について

図1 産地情勢のまとめ

(1)アルファルファの産地状況(図1)

 アルファルファの作付面積は、昨年からの価格低迷を受けてその他作物への転作が続き、前年比20%以上の減少が見込まれています。

 コロンビア盆地南部地域の生産状況は、春先まで冷涼な気候が続き、降雨量も充分な地域が多く、順調な滑り出しでした。アルファルファ1番刈りの収穫は、4月下旬から6月下旬まで行われました。5月の散発的な降雨で全体の約80%が雨あたり品となり、雨を避けられた圃場でも、適期の収穫ができず、低成分の貨物が多くを占める結果となりました。

 2番刈りの収穫は、6月下旬から7月下旬まで続きました。収穫中の天候は晴天が長く続き、緑色のきれいな良品が多く収穫されました。しかし晴天の長期継続により乾燥が進行し、7月下旬からは山火事が発生しました。3番刈りのタイミングでは、火事の煙の影響で色目がくすんでしまったり、乾燥に時間を要して過乾燥になってしまったりしたものなど、品質が不安定な貨物も収穫されています。

(2)チモシーの産地状況(図1)

 チモシーの作付面積は、他作物に比べ需要が見込める品目として、前年比約25%増加しています。晴天が続いたことにより、5月末からコロンビア盆地全域で一斉に刈り取りが開始されました。大半が5月の降雨を回避することができ、多くがプレミアムグレードで収穫されていますが、背丈が伸び、葉も増えた圃場では、日が当たらない下方部の葉が変色し、多少の茶葉混入品も見受けられました。

 一方で山間部の天水地域では、春先以降の降雨が少なく乾燥傾向が続きました。充分な背丈への生育を待たず収穫したことで、良品が多いものの単位面積あたりの収穫量は減少しています。全体的に良品が多いため、#1グレード以下の貨物は数量が少なく、価格が上がってきています。

(3)米国からみた各国の粗飼料需要動向

図2 米国産アルファルファの各国輸出状況

 各国への米国産アルファルファの輸出量推移を図2に示します。米国産アルファルファの最大の需要国は14年以降中国となり、22年には約160万トンまで輸出量を伸ばしました。22年に加熱し過ぎた牧草価格と新型コロナウイルス感染症拡大によるコンテナ物流の混乱、中国経済の成長鈍化に伴う需要減少などが引き金となり、米国からの輸出数量が激減しました。ただし、依然として輸出量は全輸出国の中で中国が最大を維持しており、中国の需要動向は粗飼料市場において大きな影響力を持っています。

 直近の25年では、米中間での貿易摩擦が顕在化しました。4月には中国側が最大125%の追加関税を米国産品に課し、事実上の輸出停止にまで至りました。しかし、5月には米中間の関税交渉によって、時限措置として関税率が10%まで引き下げられ、その措置が延長されています。最大の需要国である中国の動向は市場への価格影響力が大きく、今後の価格動向は米中間の関税交渉次第という不透明な状況が続いています。

②ZHIにおける粗飼料生産・集荷体制

 米国で生産された粗飼料が、どのような過程を経て皆様の農場に届くのかご存じでしょうか。ZHIの輸入乾牧草の集荷について、WEB限定記事を作成しました。圃場から工場集荷に至る作業工程、ZHIの品質管理体制、米国の集荷風景を撮影した動画など、下記の二次元コードからアクセスしてご覧ください。

WEB限定記事および動画視聴はこちら

③まとめ

 米国での乾牧草事業は、大型加工事業者による効率的な生産を行い、日本を含むアジア諸国へ広がりました。生産現場では農業機器の大型化が進み、より合理的な営農方法へと進化を続けています。

 一方、世界経済の変遷により、米国の粗飼料の需給構造に変化が起こり始めています。

 日本の畜産、酪農現場での柔軟な飼料利用を進める上で、養牛における良質で安定した粗飼料の供給はますます重要性を増していきます。これからもZHIは、生産者の皆様に良質な乾牧草を供給できるよう努めます。

全農ヘイ(株)ZEN-NOH HAY.inc

『ちくさんクラブ21』23年10月号 全農ヘイ(株)の紹介記事

詳しくはこちら

全農アメリカホールディングス
ポートランド支店長兼全農ヘイ営業部長 城谷 悦啓さん

 2005年、JA全農入会。畜産生産部福岡畜産生産事業所単味原料課に配属、粗飼料担当。10年、同事業所推進課にて宮崎県担当。同県で発生した口蹄疫の対策、復興支援を対応および養牛配合飼料推進を担当。14年、JA全農畜産生産部単味粗飼料課で粗飼料購買、全農ヘイを担当。19年、農林水産省食料産業局食品製造課出向し特定技能・輸出拡大・GoToEat等を担当。20年、JA全農畜産生産部単味粗飼料課代決。23年、全農グレインポートランド支店長兼全農ヘイ営業部長(現職)

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